ニンゲンシッキャク-16
わたし、進路面談って嫌いじゃないけどよく解らないんです。何を言えばいいのか、具体的に将来の方針が無いのも原因の一つなんですけど。高校も、何となく普通科で来ちゃったし。
「名古屋さんの進路は?」
「……取り敢えず、大学に行きます」
進路調査、第一次表に書き込む前進先生。
「何科ですか」
前進先生は、たまに人の心の中へ土足……。ううん、偶にサッカーのスパイクで入って来る事がある。
「……………」
わたしは、何も言えずに下を向いていた。
「まだ、考えていませんか?」
「……前進先生は、もう一度やり直せるとしたら何を職業にしますか?」
前進先生は、万年筆を机に置いた。
「そうですね、また教師だと思いますよ。学生時は生物学者になりたかったのですが、高校時代の恩師に教師に向いていると言われましてね。元々、理系でしたし。何の脈絡も無く、国文学を学び出して恩師と同じ様に国語科の教師です。名古屋さんは」
わたしは、叫ぶ様に呼んだ。
「前進先生ッ!」
「はい」
前進先生は、落ち着いていた。
「わたし、何に向いてますか?」
「唐突ですね……、名古屋さんに向いている……職業……。名古屋さんは、得意な科目はありましたか」
「得意も苦手もありません」
「なら、好きな事。趣味は」
「ありません」
わたしは、ずっと前進先生を直視していた。
「習慣は」
「新聞を読みます」
「新聞記者……、どうですか」
「前進先生……、それはわたしにも出来る事ですか?」
意を決して訊くと、前進先生は指を組んだ。
「名古屋さん、出来る事と好きな事は違いますよ。まあ、稀にそれが一致する人も稀にいますが」
「両親にも言われました、わたしには何も意思が無いって。でも、解らないんです。わたしが何をすればいいのか、何をしたいのか、どこへ行けばいいのか。わたしに、居場所はあるのか」
「……ありますよ。誰にでも、あります。名古屋さんには、まだそれが見つからないだけです。解らないのではありません。まだ、第一次の調査でしょう。時間はあります、一緒に探しましょう」
そんな事を言われたのは、初めてだった。
どこへ行くか、やっと目処が付きそうです。
「明日もあるさ」
ニノミヤ タズサ
俺は未来を見る、セリフ的には其れなりに格好良い。だけど、俺は超楽観主義者。明日出来ることは、明日すればいいじゃん。何で、明日があるのに今日しなきゃいけないのさ。マジ解んねぇし。
「二宮くん二宮くん、漢文の宿題やった?」
「へえ? だって、それ締め切り明後日じゃん。そんなもン、明日やりゃーいーじゃん」
俺は机に突っ伏したまま、ひらひらと左手を振った。
「ちぇー、教えて貰おうと思ったのに」
縁なし眼鏡が呟く。
「明日もあるじゃん、自分で考えなさいナ」
「じゃ、二宮くんに面白い事教えたげる」
「何?」
「明日は永遠に来ないって事」
「………は? 何ソレ、教えて和歌ちゃん」
「んふふ、明るい日は明日じゃないのだ」
「和歌ちゃんってばー」
「その前に、この漢文の問題教えてくれたらね」
漢文の問題集を突き付ける眼鏡。
「ったく、解りました解りましたって」
「やったー」