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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第7話-13

「もう、びくびくしないでよ、大丈夫、どう考えたってあたしが悪いに決まってんだから。ねぇ、あたしのこと、嫌な奴だと思ったでしょ。でも簡単に譲れるような気持ちじゃないなら、これからはもっと自分に対して素直になりなさいよね。むかつくけど、圭輔あなたに相当惚れ込んでるみたいだから」
「ごめんなさい……でも、ありがとうございます」
(圭輔さんは、私のこと裏切ったわけじゃなかったんだ……)
ほんの少し頬を紅潮させて、英里は絢子を見つめる。
「何で嫌がらせされたのにお礼言ってんのよ。まぁ、でも……ううん、何でもない。それじゃあね、会計はしとくから、あなたはゆっくりしてていいわよ」
慌てて英里も立ち上がって、浅くお辞儀をする。
「……あーあっ、引きずってないで早く新しい男見つけなきゃ」
妙に清々しい気分で、絢子は店を後にした。
(圭輔が好きになるのもわかる、なんて本人には絶対言ってあげないんだから)


また一人店内に残された英里は、力なく座り込んだ。
安堵のような、後悔のような、様々な感情が渦巻く。
(誤解だったのに、圭輔さんのこと、私、信じてあげられなかったんだ…)
自分の気持ちに素直になれと言われたばかりなのに、もう圭輔の隣にいる資格なんてない。
傷付けてしまった事実は変わらないのだから。



「ったく、何であたしがここまでしてやんなきゃなんないのよ。世話の焼ける……」
授業が終わり、大半の生徒が既に下校したであろう時刻、穂積陽菜は、母校の前に佇んでいた。
校門の前の警備員に、卒業生である事を話すと、何とか校内に入ることができた。
受付の事務員に、教師の呼び出しをしてもらい、待つこと数分。
「……こんにちは、お久しぶりです」
近付いてくる足音に顔を上げると、そこには長谷川圭輔の姿があった。
「穂積さん、用事って?」
「ちょっと、ここでは話しづらい内容なので、今少しお時間良いですか」
そういって彼女は、彼を促した。
校内の人目のつかないところまで来ると、改めて圭輔に向き合う。
「あの、話っていうのは、英里のことなんです……」
「英里の……?」
彼女の名前が出た瞬間、圭輔の顔色が変わる。
あれからメールの返信も勿論なく、電話も全く繋がらない状態で埒が明かない。
こくん、と陽菜は無言で頷いた。
「第三者の私が口を挟んでいい問題なのかわからないんですが、英里を見てると痛々しくて、放っておけないんです……。あの子、他人に気を遣いすぎてるというか、頑固なところがあるからあんまり頼ってこないし」
そう前置きした後、英里から聞いた話を、掻い摘んで彼に伝えた。
「本人が直接話した方が良いとは思ったんですけど、先生に迷惑掛けたくないの一点張りで、このままだと、本当に意に添わない相手と婚約させられちゃうかもしれないから……あの子の事、助けてあげて下さい」
英里から話を聞いた後、彼女は居ても立ってもいられず、その翌日には勢いのままに彼の元へと来てしまったのだった。それが正しい事なのかどうかはわからない。だが、どうしてもこのまま見過ごせなかった。
「そうか……」
圭輔は、静かに溜息を吐いた。
どうして、自分に相談してくれなかったんだろう。彼女を守りたいと思う気持ちは同じなのに。
やはり、絢子との仲を誤解されているままだから、もう愛想を尽かされたのだろうか。
(でも、俺は……!)
英里を愛している。諦められない。
「本当にありがとう、穂積さん。申し訳ないけど、あともう一つ、頼みを聞いてくれないか……?」
内に秘めた激情を必死に抑え、圭輔は陽菜にあることを切り出した。


「英里、仕度はできたの?」
「……うん」
英里は表情を強張らせたまま、力なく返事をした。
これから初めて会う相手と見合いをし、婚約しなければならなくなるかもしれない。
仕方がない、彼を守るための交換条件だ。
「お父さんもお母さんもどうしても仕事が抜けられなくて。いい?先方に粗相のないようにね」
「……約束、忘れないでよ」
顔を合わせないまま、低く呻くように苦々しく、英里はそう口にした。
「わかっているわ、じゃあ行くわね」
母が家を出るのを確認すると、英里は大きく溜息を吐いて天井を見上げた。
着慣れない服が何だか窮屈で、少し息苦しい。ますます意気消沈してしまう。
電話で一方的に別れを告げて以来、圭輔とは連絡を取っていないし、勿論顔を合わせてもいない。
あんな風に切り捨てて、彼はきっと、自分の事を非情な人間だと思っていることだろう。
もう会う事はないかもしれない。
こんな身勝手な自分の事なんか早く忘れて、新しい恋人を作って幸せになってくれれば……
(祝福、してあげられるのかな……ううん、そんなの……)
感傷的になっていたその時、携帯の着信音が鳴った。
(陽菜……?どうしたんだろう)
『はい、もしもし』
『英里、今日お見合いの日なんだよね。その前に、少しだけ会えないかな?』
見合いは夕方の5時からだ。まだ昼過ぎなので十分時間に余裕がある。
英里も陽菜に会って、少しでも気持ちを落ち着けたかった。
『うん、大丈夫だよ』


彼女との待ち合わせ場所で英里はぼんやりと待っていた。
ドレスアップした姿が目立つのか、通行人の視線を感じるが、気が沈んでいた彼女には全く気にならなかった。俯き加減に友人を待っていると、
「英里」
その刹那、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
突然耳に響く、感傷を遮る、声。
まさかと思いながら、ゆっくりと顔を上げると、
「え……?」
どうして、彼がここに?
「やっと、捕まえた」
切羽詰った表情の、圭輔がすぐ傍に立っていた。


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