君を諦めたくない1-3
「……久留米くん」
芽衣子が口を小さく開いた。
「ん?」
「なんで、あそこに来てくれたの?」
それは俺も知りたかった。
芽衣子とラーメン屋で別れて奴は確かに駅の方へと向かっていったはずなのに。
「ああ」
久留米は少し顔を赤くすると、通勤用の黒い鞄に手を伸ばし、何やらゴソゴソ探し始めた。
そして鞄の中から目的のものを手に取ると、芽衣子の目の前に差し出した。
「これ……」
芽衣子は少し目を丸くして、テーブルの上に置かれた物を見つめた。
「部屋の大掃除してたら、お前から借りっぱなしになっていたヤツが出て来たんだ。
今日はこれ返すつもりだったのに、駅に着いてから返すの忘れてたことに気付いて、お前のアパートに戻ったんだ。
でもとっくに家に着いてる時間のはずなのに、電気点いてないからおかしいと思って辺り探してたら、お前の悲鳴が聞こえて、それで……」
久留米はさっきのことは口に出したくないようで、最後はあやふやに言葉を濁した。
「そっか。このDVDがなかったら、あたし、あのまま……」
芽衣子がブルッと身震いして自分の身体を抱きしめるように腕をまわした。
「おい、あんなこと思い出すな」
「あたし、久留米くんには助けられてばっかだね」
「んなことねえよ。
お前を一人で帰らせたオレも悪かったんだ」
「ううん、あたしホントに久留米くんに感謝してる。
……ありがとう」
芽衣子が深々と頭を下げると、奴は顔を少し赤くして、
「どういたしまして」
とだけ呟いて、照れ隠しのようにネクタイをクルクル丸めたりしていた。