君を諦めたくない1-11
久留米は明日、朝が早いそうで名残惜しそうに帰って行った。
あんな出来事があった後で、芽衣子を一人にすることが心配だったのだろう。
しかし芽衣子は気丈に振る舞い“もう大丈夫だから”と繰り返して、後ろ髪ひかれている久留米を説得した。
久留米を玄関先で見送ってから、芽衣子はベッドに仰向けになって、白い天井を黙って見つめていた。
その顔にはどことなく迷いの色が浮かんでいる。
俺はそんな彼女を見つめながら、先程の久留米の告白を反芻していた。
傍目で聞いていた俺ですら、久留米の真っ直ぐな想いには心を動かされてしまった。
当事者の芽衣子は一体今、何を思ってそんな切ない顔をしているのだろう。
結局あの場で答えを出さなかった芽衣子の心が知りたくて、芽衣子の髪にそっと触れてみる。
すると芽衣子は突然身体を起こし、辺りをキョロキョロし出した。
「ほら、手島さん。あなたがそうやって触るから有野さんが気持ち悪がるんですよ」
すかさず園田が俺のしていることを非難してきやがった。
「気持ち悪がるってこたねえだろ、失礼だな」
「だって、有野さんにとっては得体の知れない何かが髪を触ってるんですよ?
気持ち悪い以外の何物でもないですって」
「うるせえな、これくらいいいだろうがよ」
何度注意しても、俺が人や物を触るのを止めないもんだから、園田は止めても無駄だと判断したらしい。
注意する代わりに、大きなため息を吐いて、俺をバカにしたように首を傾げていた。
さらに園田は、“今回の死者は大ハズレだ”と俺に聞こえるようにぼやいていた。