少女-1
夢から目覚めたような感覚を引きずったまま、理人は図書館のあちこちをウロウロしていた。
そうして萌恵を見つけたとき、彼女は視聴覚ルームの端末の前で考え事をしていた。
「モエ」
「あっ、マサトくん」
「何かわかった?」
「うんとね、2年前の7月20日の朝刊にね、こんな記事が載ってるんだけど」
「どれどれ」
理人は萌恵の横から割り込んで画面をのぞく。
2人の腕が触れているので、萌恵が恥ずかしそうに横目を送る。
しかし、理人のその表情はおどろきに満ちていて、今にも何かを叫びそうな雰囲気だった。
顔が少し青白い。
「この記事、どう思う?」
萌恵はたずねてみたけれど、理人からの返事はない。
「どうしたの?マサトくん、なんとなく変だよ」
もう一度だけ訊くと、理人はようやく口をひらいてくれた。
「今、何時?」
萌恵は腕時計を見て、
「10時をちょっと過ぎたところだよ」
あたりまえにつたえた。
それを聞いて理人はますます気持ちが悪くなった。
萌恵に別行動にしようと言ったときから、まだ20分も経っていなかったからだ。
遥香との出来事はおそらく、1時間以上にも及ぶハードなものだったはずで、それを考慮すると計算が合わない。
「ごめん、今日は帰る」
そのセリフだけを残して、理人は視聴覚ルームから出て行ってしまった。
さみしい空気に包まれたまま立ち尽くす萌恵。そしてひらめいた。
当時、25歳の今井遥香という女性が発見された『第4書庫』の場所へ行ってみようと、職員の1人にたずねることにした。
「場所は教えてあげるけど、中には入れないからね」
そう言った職員の表情がどことなく浮かない感じに見えて、妙に印象に残った。
萌恵が書庫のドアの前までたどり着いたとき、空気に花の匂いが差し込む感じがあった。
この匂いは、もしかして──。
そんなふうに誰かの存在を察した瞬間、目の前のドアが勝手にひらいて、そこからきれいな女の人が出てきた。
思ったとおり、今井遥香だった。