おかしな熱中症-3
この女の人は何かを知っている。
ていうか、すべてを知っている気がする──。
「ぼくの友達、健太郎と博士のことだけど、図書館に来た次の日に熱が出ちゃって、病気なんだ。お姉さんは何か知ってる?」
正義のヒーローになりたがる理人の気持ちが、遥香にもよくわかった。
わかった上で、答えをはぐらかすような微笑みで少年を見つめ返す。
理人は直球勝負で質問をぶつけてみた。
「お姉さんは、幽霊なの?」
我ながら寝ぼけたセリフだなと思いつつ、それ以外に言葉が浮かばない。
「だったらどうする?」
とても好感の持てる笑顔が返ってきたので、理人は完全にペースを乱されてしまって、赤面した。
「健太郎くんと博士くんがしてくれたみたいに、きみもわたしとエッチなことしてみる?」
「……?」
「大丈夫、ただのお医者さんごっこだから」
遥香はうなじのあたりを探ってシュシュを解き、長い髪を左右に振り払った。
相手のペースに流されちゃいけないとわかっているのに、魂を吸い取られる感覚というのか、いつまでも子どものままではいられない自分がいることを悟る理人。
そして、思いついたことがある。
「あのう、お姉さんのこと、写真に撮ってみてもいい?」
「もしかして、幽霊なら写真に写らないって思ってるでしょ?」
「いいよね?」
「それはいいけど、携帯電話もないのにどうやって撮るの?デジカメ?」
「知らないの?今どきみんなこれで撮ってるんだよ」
理人がリュックから取り出したのは、巷で流行している携帯型ゲーム機だった。
どうやらこれにカメラ機能が付いているらしい。
ジュニア市場ももはや盗撮天国になりつつあるんだなと、遥香は背中にゾッとする悪寒を感じた。
と同時に、それが興奮材料にさえなってしまう。
ある部分は冷たくて、ある部分は熱くて、どうしようもなく体が疼く。
「撮るよ?」
「オッケー」
理人がゲーム機を操作した瞬間、シャッター音らしきメロディーが遥香の耳の奥で鳴った。