終業式-1
あの夏にかぎって、ぼくらはみんながみんな、子供の振りをした大人だった。
運動会のある秋よりも、クリスマスプレゼントがもらえる冬よりも、学年が1つ上がる春よりも、とにかくダントツで夏が好きだ──。
はじめに、1人の少年が言う。
「ボッチさあ、今年の夏休みは何デビューするの?」
健太郎はクラスでいちばん背が高いというだけで、妖怪の『ダイダラボッチ』からもじった『ボッチ』の愛称で呼ばれている。
「昨年はコーヒーをブラックで飲んだもんね。そういえばハカセ、半分くらいしか飲めなくて泣いてたっけ」
博士は漢字のまんま『ハカセ』で、ついでにメガネをかけている。
「泣くもんか。父ちゃんにたたかれたって泣かなくなったしさ」
痛い過去を思い出しながら、さらに、
「マサトはもう決まったか?」
学年でいちばん成績のいい理人に発言権を渡したところで、3人の会話がちょうど一巡した。
「内緒の話だけど、おれ、ケータイが欲しい」
理人だ。
「スマホ?」
「スマホ?」
「うん、スマホ」
「マサトはいいじゃん、テストはいっつも100点だし」
「おれとボッチなんて勉強が苦手だから、きっと買ってもらえないよ」
博士に却下されて、少年国会はふりだしに戻る。
「ちょっと、そこの男子。携帯電話は校則で禁止されてるんだよ?」
いい子ぶった調子のセリフを言ってきたのは、学級委員の萌恵だ。
「女子がカッコつけんな」
「カッコつけんな」
「モエだってほんとはケータイ欲しいんだろ?」
男子からの冷やかしにも萌恵はひるまない。
「そんなのまだいらないです。中学生になったら、お母さんが買ってくれるから」
「いいなあ」
「モエの母ちゃんて、社長してるんだよな?」
健太郎が言うから、
「ボッチくんもちゃんと勉強したら社長になれるよ」
けなげにアドバイスを返す萌恵。