終業式-3
「それじゃあ、出欠をとります」
教壇に立って、出席簿をひらく。
「榎本健太郎(えのもとけんたろう)くん」
「はい」
ボッチが元気に返事をする。
「河合博士(かわいひろし)くん」
「はい」
ハカセも負けずに大声を出す。
「根室理人(ねむろまさと)くん」
「はい」
マサトの右手が高々と挙がる。
そうして女子に移って、
「比留川萌恵(ひるかわもえ)さん」
「はい」
モエが100点満点の返事を披露する。
夏のあいだにやっておきたいことがいっぱいあるんだから、終業式なんてやらなくてもいいのにと、小学生なら誰でも思うだろう。
下校しても、まっすぐ家に帰ってやるもんか。
お菓子とジュースとゲームがあれば、2学期までは何もいらないや。
だから、ぼくらの夏休みに、大人は入ってこなくていいよ──。
そんなことを考えながら全員で退屈な終業式を乗り切り、夏休みの宿題を受け取ると、下校のチャイムが鳴った。
強い日差しが降りそそぐ校庭へ出ると、セミの声は一層やかましく、木という木にまとわりついていた。
校舎から一歩外へ出た時点で、夏休みはもうはじまっているのだ。
「よし、プール行こうぜ」
「カブトムシは?」
「おれ、ラムネが飲みたい」
健太郎と博士と理人の3人が口々にしゃべっていると、
「新聞デビューのこと、ぜったいに忘れちゃダメだよ?」
赤いランドセルを揺らして、萌恵が釘をさす。
「明日の9時に、図書館の前に集合な?」
「クーラー、ついてるかなあ」
「おれ、知ってるよ。今年は節電なんだってさ。だからあんまり涼しくないかも」
「お菓子は持ってく?」
「母ちゃんにお弁当作ってもらう」
「お菓子は?」
「モエも遅刻するなよ?」
「うん、バイバイ」
男子グループと女子グループはそこで別れた。
健太郎はまだ何かをつぶやいている。
「ねえ、お菓子……」