終業式-2
「社長と、学校の先生と、どっちが偉いかな?」
「きっと社長だよ」
「じゃあ、政治家は?」
「今の政治家はぜんぜんダメなんだってさ。うちの父ちゃんが新聞読みながら、いつも言ってる」
博士のセリフを聞いて、優等生の理人があることを思いついた。
「ボッチ、ハカセ、今年の夏休みデビューは、新聞にしようよ」
みんなが目をまるくした。
それからちょっぴり考える顔をして、
「なんかそれ、社長っぽくていい」
健太郎が賛成した。
「社長はコーヒー飲みながら新聞読んでるイメージだしね」
「うん、うん、みんなで社長になろうよ」
『コーヒー』プラス『新聞』イコール『社長』という安直な発想だけで、この案件は無事に可決された。
「わたしも仲間に入っていい?」
萌恵がおそるおそる言う。
「どうする?」
「そうだな」
「いいよ」
わずか5秒で話はまとまった。
女社長の娘で、しかも学級委員という立場の自分が、ほかの男子に先を越されるわけにはいかない。
どうせなら、できるだけむずかしい新聞にしてみようと、萌恵は密かに決めていた。
「先生が来たぞ」
廊下側の席から教室の外を見張っていた生徒が、真っ黒に日焼けした顔をこっちに向けて叫んだ。
歯の何本かが抜けたまんまになっている。
「鍵盤ハーモニカのドレミだ」
誰かが笑った。
クラス担任の大橋美希(おおはしみき)は、教室に入るなり黒板を眺めて、にっこりと微笑んだ。
「これは誰が描いたのかな?」
教師の問いかけに、生徒は誰一人として答えない。
その代わりに、どの顔にも溢れんばかりの笑顔が用意されていて、彼女なりに胸が躍った。
白いチョークで『夏休み』と書いたまわりに、ひまわりやら花火やら昆虫のイラストが、にぎやかに描かれている。
自分でもなかなかここまで上手く描けないなと、大橋美希はつくづく感心した。