「もっとイチャイチャしたい!」-1
「あっつーい…」
外では暴力的なくらいの日差しが、コンクリートをじりじりと焼いている。
渡り廊下に出ただけでげんなりするぐらい暑い。
「ちょっと悠馬!早くしてよ!」
「ごめんごめん」
気の強い彼女の後ろから小走りでかけて来るのは、優しそうな笑顔の恋人。
「真奈美、歩くの早いなあ」
「夏休みが一番図書室混むんだから、早く行かないと席なくなっちゃう」
怒ったようにぷいっと前を向いて、真奈美はまたスタスタと歩いていく。
学生の特典と言える夏休みも、受験生には関係がない。
むしろ、休み期間だからと解放されている図書室は生徒でいっぱいだった。
「うわ、混んでる」
「だから言ったじゃない。もう、悠馬がのろのろしてるからよ」
「あはは、ごめん」
いつもまるで怒ることなくニコニコしている彼に多少苛立つこともあったが…
…はぁ、またこんな言い方…私のバカ。
真奈美は素直になれない自分にこそ、いつもイライラしていた。
「バラバラになら座れそうだけど、どうする?」
「それじゃ駄目…っ」
思わず出た彼女の言葉に、悠馬はぱちぱちと瞬きをする。
「あ、えと、」
必死に言葉を探して頭を働かせる。
「悠馬ができないとこ私がフォローしてあげなきゃなんないんだから、遠いと不便でしょ?!」
「あー、うん、そうだね。」
自分の言葉に釈然としない思いを抱えながら、真奈美はまたふんっとそっぽを向く。
「じゃ、場所もないし、どっちかの家でやる?」
「えっ」
やったぁ、二人きりになれる!
「私んち、今日誰もいないから!来てもいいよ。悠馬、どうせ部屋片付いてないでしょ?」
「そう?じゃ部屋借りようかな」
思いとは裏腹な言葉が出てくる面倒な自分を、いつも優しく受け止めてくれる。
真奈美はいつも心でお礼を言っていた。
ちょっと気弱だけど、器用で優しくて、大好きな彼氏。
でも、一つ不満があった。
『誰もいないから』
強調したんだけど、気づいてないよね…。
彼の丁寧で優しいセックスは多少物足りない時もあった。
でも、大好きな彼氏なのだ。
もっと一緒にいたいし、触れてほしい。
こうして一緒に勉強することはあっても、受験生という身分だからかエッチはご無沙汰だった。
悠馬が隙もなく勉強ばっかりするから…言い出せない。
お互い第一志望校合格圏内なんだから、ちょっとぐらいイチャイチャしたっていいじゃない!
しかし、強がりで照れ屋な性格に加えて今までの態度もあり、真奈美は自分からそんなことを言うなんて考えただけでも顔から火が出そうだった。
普通、こういう悩みは男のコのものでしょ?!
悠馬の馬鹿!甲斐性なし!
欲求不満なんだよー!
彼の横顔を睨みつけていると、ふいに目が合う。
「あっ、え、なに?」
慌てて尋ねると、彼はにっこり笑って目の前の洋菓子店を指さす。
「ちょっと買って行っていい?」
「いーけど…」
なーんだ、お菓子か…