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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章-2

 ──我が子を、伝一郎を守らねば為らない!

 彼女は脱兎の如く台所に発つと、包丁を握り締めて伝衛門の前に立った。

「な、何をしとるんだ!」

 伝衛門は、一瞬たじろいだ。彼も感じたので有る。目の前の菊代は、初(うぶ)で摩れた所の無かったあの頃とは、似ても似つかぬ女に為っていた事に。

「出て行きなさい……私の伝一郎を、貴方になんか渡すものですか!」

 凄まじい鬼気を放ち、菊代はにじり寄る。しかし、伝衛門も、伊達に暴漢揃いの炭坑夫共を束ねてる訳では無い。

「……まあいい。お前の母としての本性は見せて貰った。このまま、警察沙汰と為っては後々面倒だ」

 そう言った伝衛門は、突然、土間に跪いて土下座をした。

「この通りだ。伝一郎を、渡してくれないか」

 菊代は一転、茫然と為った。この変わり身の速さも、初めて見る伝衛門だった。

「……何故、そうまでして伝一郎を?貴方には、本妻の産んだ貴喜さんが居るはずではないですか」
「それは……」

 伝衛門は面を上げた。土間の土が貼り付いた額に、苦悩の皺が刻まれている。

「息子は……貴喜は死んだ」
「えっ?」
「貴喜は、馬車に轢かれて死んだのだ」

 聞けば、貴喜が亡くなったのは去年の十一月。脇道から本道へと飛び出した際、出会い頭に乗合い馬車とぶつかり、手当ての甲斐無く十歳と言う生涯を閉じたそうだ。
 一報を受けた伝衛門は強い衝撃と共に、深い悲しみの底へと突き落とされた。
 一粒種として鐘愛(しょうあい)してきた我が子を、一瞬にして奪われた喪失感。それと同様に涌き上がって来たのは、嫡子を失った事に対する焦心だった。
 この時、伝衛門の頭を掠めたのが伝一郎の存在である。

「──それからの儂は、人を雇ってお前逹の居場所を探した。そして漸く、見つけたのだ」

 執念をも感じさせる行動力。それ程、伝衛門は必死に為らざるを得なかった。

 何故ならば、

「既に五十を過ぎた儂に、新たな子を成す力なぞ残っておらん」

 老いによる不能に陥り、子を設ける事が叶わ無いと為れば、跡目は肉親以外へと渡ってしまうからだ。

「儂が築き上げた物は、儂の子以外に渡す腹積もり等は無い。喩え、お前の父親でもな」

 ここまで聞かされた時、菊代は伝衛門に憐憫(れんびん)さを覚えた。
 若い頃から実業家として辣腕を奮い、県下一の資産家へと伸し上がりながらも、自分の配下の誰一人として信頼せず、猜疑を抱いて一途に生きている。だからこそ、女学校上がりで姪の自分を金庫番として雇い入れ、安定を図ろうとしたのだ。


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