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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章-17

「ああ……伝一郎」

 途切れ出した思考の中で、菊代は自らを悔いた。今生の別離と思い、望んで我が子と肌を重ねた自分の愚かさを。
 そして思う、この先に待ち受けるのは地獄しか無いと。

 ──抱かれながら、追っていたのはあの人の面影であり、想いは今も、心の中で燻り続けていたのだ。

 千代子と幸一と言う“忌まわしき子供逹”を産んだ今も、我が子との目交わいを望んで止ま無い。肉体は伝一郎なれど、面影から伝衛門との目交わいを重ねているのだ。

 ──この先に待つ地獄が、如何なる物に為ろうとも、私一人が堕ちれば全ては終わるはず。子供逹に迄、類を及ばせては為らない。

 菊代は将来、必ず訪れるであろう伝一郎との岐路に於て、一つの行先を下した。
 しかし、それは哀しき選択で有った。





 菊代逹と過ごした甘い生活の翌日、伝一郎は汽車に乗っていた。
 実家迄は駅五つ分、一時間の道程だが、乗り合い馬車ならその倍以上は掛ってしまう。
 一度に大量の人間を運べる鉄道は、僅かな期間で、庶民の足としての地位を確実な物と成していた。

 学校は毎年、夏季休暇にだけ長い帰省を許している。が、その期間はニ週間と余りに短く、残りの期間は林間学校に〇〇岳への登頂、臨時夏季講習と、隅無く行事が計画されており、自由闊達な日々等僅かしか与えられ無かった。
 だから皆、間際迄実家で悠然と過ごすのだが、伝一郎だけはちょっと違っていた。
 予め、電報にて帰宅の日程を連絡しておくのは皆と同じだが、伝一郎は“前入り”と称して菊代の家に一週間程滞在し、その後、実家に戻るのを慣例としていた。
 因みに、実家に居るのは三、四日と言う短期間で早めに学校に戻るので有る。

(相変わらず、嫌な街だ……)

 汽笛が鳴った。線路伝いに歩く者を警告し、乗客に駅が近い事を報せる。音を合図に全乗客は降りる支度に掛かった。
 次が終着駅だった。線路はこの先ずっと続いているが、先に在るのは石炭の積み出し場だけで有った。
 緩やかな曲路を抜けて最初に目にするのは、右の車窓から眼下に望む街の広がりだ。その規模や行き交う人影の多さ、立ち昇る煙の数に乗客は、住人の快活さを連想する事だろう。
 しかし、彼等が最も心奪われるのは街では無い。街より少し先に見える、街並みを遥かに凌ぐ高さで聳(そび)え立つ、巨大な巻き上げ機と、雲の様に煙をたなびかせている硬(ボタ)山が、一際異彩を放っているからだ。
 これらは全て、伝衛門がニ十年掛けて造り上げた“帝国”で有る。

 縦横に整備された道路。街の周辺には、居住区として炭坑長屋が整然と並んでいる。中心地には購買所は勿論、食料品や被服、雑貨に飲食店や宝飾品等も含めた商店街が軒を連ねるばかりか、傍らに演舞場や舞台小屋等の娯楽施設を備える。
 他にも、小学校に幼稚園、消防団や警察所、神社仏閣、それに病院と銭湯がニ軒。そして賭場までも在った。
 炭坑には、老若男女だけで無く、刺青者や賤人(※1)、更に朝鮮人も炭坑夫として働いており、その者逹が不自由無く生活出来、仕事に専心させる術として、ありとあらゆる物を揃えてやるのは相当の才覚と金を要する。
 その一つ、才覚については“金が金を産む”街造りに活かされているが、それ以上に、連綿と受け継がれて来た庄屋としての気質による所が大きい。
 庄屋とは、広大な自分の田畑で小作逹を酷使し、収穫だけを搾取する者では無く、小作と言う“人間の一生を面倒見る”者で有る。小作が居なければ、莫大な財力を維持する事は叶わ無い庄屋は、小作の暮らし向きや様々な揉め事の処理、冠婚葬祭は勿論、体調、教育等と、あらゆる面に気を配り、労力としての維持を図っているだ。
 これらの尽力は、小作との関係を単なる主従以上の“繋がり”を生み、小作は安心して労力に励むに至るのだ。


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