前章-10
「子供だから、こんな物か」
中に詰まっているのは、粉状に為った木の灰。二摘まみ程を桶に取り、残り湯を少量混ぜてやると黒い泥水の様に為った。
「さあ、ちょっと我慢してろよ」
「うう〜」
千代子の髪の根元に泥水を塗り、馴染ませる様に揉み込んで行くと、脂で滑っていた髪が次第に軋んで来た。
「よし!こんなもんだろう」
指の掛かり具合から洗い上がりと感じ、泥水だらけと為った千代子の頭に、再び残り湯を浴びせた。
「千代子。下を向いて」
「ぷはぁ!はぁぁ!」
何杯もの残り湯を被り、泥水が次第に濯がれて行く。千代子は、顔に水が掛かり続ける恐怖を必死に拭っている。
「よーし!綺麗になった」
伝一郎は、濯ぎ終わった髪から滴る水気を絞ってやった。
「……おとーしゃん、おわい?」
水の音が止んだ風呂場で、千代子は恐る々と訊ねる。すると伝一郎は、優しく微笑みながらも、
「髪の毛はな。後は身体を洗うんだ」
「いや!いや!」
そう答えた途端、千代子はとうとう、泣き出してしまった。
だが、伝一郎は容赦し無い。左手で千代子を抱えて右手に濡らした糠袋を持ち、小さな身体に擦り付けて行く。
「綺麗にしないと、困るのは自分なんだぞ」
尤もらしい言葉を吐いても、二歳児が知る由も無い。結局は、泣きじゃくる千代子を無理矢理洗う事と為った。
「ふう。やっと終わった……」
予定より相当な時間を割いて行水は終了した。さっきまで泣いていた千代子も、既に機嫌が直ってる。
「おとーしゃん!あいすくいん」
「ああ。そうだったな」
子供とは現金な者で有る。散々嫌がっておきながらも、次に楽しい事が有ると、瞬時に気持ちを切り替えてしまう。「自分にも、こんな時期があったのか?」と、伝一郎は考えてしまう始末。
「お母さんが戻ったら、内緒で行こうな」
「うん!」
伝一郎は千代子の前にしゃがみ込んで、濡れた身体を拭いてやろうと手拭いを当てた。その時、ふと、異形なる考えが頭の中から涌き上がった。
──千代子と幸一は、俺と菊代の子だが、菊代は俺の母でも有る。するとこの子逹は、俺の妹で有り、弟と為るのか?
胤(たね)違いの弟妹であり子供と言う異常為る関係──若し、千代子が俺の子胤を宿したとしたら、産まれる子とはどんな関係と為るのか。
常人なら吐き気を催す事柄だが、伝一郎は違った。妄想の虜と為った脳内は情欲に支配され、淫茎をこれ以上ない程に怒張させると、幼児である千代子の乳首に手を掛けた。