空に風が吹くように-3
それは四年前の夏休みの事だった。突然、お袋から電話がかかって来た。
「今年も夏休みに帰って来ないの?」
「うん....バイトがあるから....」
「お金の事だったら気にしなくてもいいのよ!」
「そんなわけにはいかないよ!親父やお袋..それに風香まで働いているのに俺だけ遊んでいるわけには....」
「そう?ごめんなさいね!」
「いいよ!気にしなくても....それより何で電話してきたの?帰って来いっていうわけじゃないんでしょ?」
「実はその事なんだけど....風香がね....彼氏にフラれちゃったみたいで....最近元気がないのよ....風香をそっちに行かせるから気分転換させてやってくれない?」
「そんな事言われても....」
「深く考えなくてもいいのよ!ディズニーランドとかいろいろ楽しい所があるでしょう....適当に連れて行ってやってくれない?」
「うまくいくかわからないけど....やってみる....」
「そう!ありがとう!風香には顔を見せないあんたの様子を見て来るようにって言っておくからね!」
「わかった....」
俺は面倒くさそうに電話を切ったが風香に逢える嬉しさを堪え切れなかった。
「へぇ....意外に片づいているじゃない....」
駅に迎えに行った風香を部屋に連れて来た時、部屋を見た風香の第一声がこれだった。
「意外ってなんだよ!俺はこまめに片づけていたほうだぞ!風香と違って!」
「失礼ね!今はちゃんと片づけているわよ!」
「えっ?そうなの?」
「あたり前でしょ!一応女の子なんだから....」
「一応ね.....」
少し会わないうちに風香は綺麗になった。小さい頃から可愛かったが、大人になっていっそう綺麗になった。
「何か文句があるの?」
「イヤ別に....」
「ならいいわ....それより近くにスーパーはない?」
「あるけど....どうして?」
「夕食の材料を買いに行くのに決まってるでしょ!」
「えっ?風香が作ってくれるの?」
「泊めてもらうんだからそれくらいはね!」
「大丈夫なのか?」
「失礼ね!これでも毎日お母さんの代わりに作っているのよ!」
「そうなの?」
俺は風香の手料理がだべられるという嬉しさを隠し、仕方ないな....という風を装った。
実際、風香が作ってくれた料理は美味かった。
「美味いなこれ!」
「でしょ!これならいつでもお嫁に行けるよね!」
「そうだな.....」
もしそんな日が来たら....俺は祝福出来るのだろうか....多分出来ないだろう....でも....風香の事を考えて....おめでとうって言うんだろうな....そんな日が来ない事を祈っているが....いつかは......
「どうしたの?」
「いや別に....風香と結婚する人は幸せだな....って....」
「でしょ!」
風香はそう言って笑った。俺はハッとした....もしかして地雷踏まなかったかな?って....しかし風香は気にしているように見えなかったのでホッとした。
「あっ!俺これからバイトがあるから!」
「えっ?これから?」
風香は不満そうに言った。
「いつもは違うんだけど....今日は特別なんだ....この時間に入っているシフトが休んだからね!遅くなるから....先にベッドで寝てていいよ!」
「空弥はどうするの?」
「適当にその辺で寝るよ!」
俺はそう言ってバイトに向かった。