空に風が吹くように-2
夜行バスが着いてすぐに風香に電話しようと思ったが朝早かったのでメールを送る事にした。
[今、夜行バスで着いた。どこに行けばいい?家?工場?それとも別な所?]
腹が減ったのでファミレスに入った時に風香から電話があった。
「もしもし....空弥?」
「うん....どうした?」
「電話じゃ話せないから亜季(あき)の家に来て!」
「わかった!」
俺は朝食を食べてから亜季の家に向かった。亜季とは俺達の幼なじみで小さい頃は三人で遊んでいた。小学校の高学年になる頃には俺は一緒にいる事はなくなったが風香はずっと一緒にいた。
適当に時間をつぶし9時過ぎに亜季の家に着くと、亜季の家族は俺を迎えてくれた。リビングに通されると風香が青い顔して座っていた。
「風香!どうしたんだ?」
「空弥君....事情は私から話そう......」
おじさん(亜季の父)が俺を止めた。
おじさんの話によると、父が借金の保証人になっていた人が夜逃げして、その人の借金が全部父に被って来た。父と母は知り合いをまわって、なんとかお金を用意して来る....と言って姿を消したまま連絡がつかず、返済の期限がきて、借金の取り立てが風香の所にまで来て、借金を返せ!返せないなら風俗で働いてでも返せ!と言われたそうだ。たまたま亜季が見かけて風香を連れて来てくれて、そのまま泊めてくれているそうだ。
「すみません....ありがとうございます....」
俺は亜季の両親に頭を下げた。
「これからどうする?」
おじさんが心配そうに聞いてきた。
「俺ではどうする事も出来ないので、島津のおじさんに相談しようと思います。」
島津のおじさんは警察官をしている父の友人だった。
島津のおじさんに事情を話すと、弁護士さんを紹介してくれて、その弁護士さんに全てお願いして亜季の家に帰った。亜季の家に帰って、その事を話すと、みんなホッとしてくれた。
「風香これからどうする?家に帰る?」
「うん....でも....」
風香が躊躇っていたので
「それじゃあ....ウチに来る?」
「いいの?」
「ああ!狭くてもいいならな!」
「空弥の部屋が狭い事は知ってるよ....でも....家にいるよりは....」
風香はよほど怖かったのだろう.....無理もない....風俗で働いてでも金を返せ!と言われたのだから....
俺達は亜季の家族にお礼を言って亜季の家を出た。
「一度家に戻る?」
「イヤ!」
風香が即答したので
「そうか....それじゃあ行こう!」
俺達は東京へと向かった。
東京に着き、部屋に帰る途中で、風香が着替えを持っていない事に気づいた。
「風香!これ!」
俺は財布を差し出した。
「えっ?」
風香は不思議そうな顔をした。
「お前着替え持って来てないだろ!」
「いいよ....交通費も出してもらったのに....」
「バカ!何遠慮してるんだよ!女の子なんだからそんなわけにはいかないだろ!」
俺は目の前の商業ビルを指差し
「ここ....前に風香が行きたいって言ってた店だろ!これで買って来いよ!足らなかったらおろして来るから....」
「ありがとう....でも....本当にいいよ....私のような田舎者には勿体ないよ....もしも買ってくれるって言うなら....ファストファションのお店がいいな....そこなら、向こうにもあってなれているから....」
「そうか?風香がいいなら....俺は別にいいけど....」
それから俺達はいくつかの店を回って風香の着替えを買った。
「風香が着ているとファストファションの服でもブランド品と変わらないように見えるのは不思議だな?」
「えっ?」
「会社の女の子がなんとかっていうブランドの服が好きで着てきているって言ってるけど....悪いけど風香が着ている服と変わらないような気がして....」
風香は嬉しそうな笑顔を見せると俺の腕にしがみついてきた。
「ファションに疎い空弥に言われてもなぁ....」
「だったら離れろ!暑いだろ!」
「別にいいじゃない!それとも私とこうしているのを見られるとマズい人でも出来たの?」
「残念ながらまだ....」
「それならいいじゃない!」
「そういう風香はどうなの?」
「私?私は....いたらこんな事はしてない....」
「俺と同じか....」
「空弥と一緒にしないで!私は田舎にいるから出逢いがないだけ!モテない空弥とは違うの!」
「ハイハイその通りでございます!」
「わかればいいのよ!」
俺は風香の顔に以前と変わらない笑顔が戻り、軽口を交わせるようになった事にホッとした。
風香は知らない....俺はあの日誓ったんだ....風香と結ばれなくても....風香への想いは変わらない....風香の事を守ってくれる人が出来るまで俺は風香を守ろうと....それまでは兄として風香を守ろうと....自分の気持ちを押し殺して....