君にしてきたたくさんのひどいこと-8
店内に入ってから、無造作に掴んできた財布の中身を確かめる。
札が入ってないことに舌打ちが出た。
金が無くなったから芽衣子からもらうつもりでいたのに、あの騒ぎでもらいそびれていたのだ。
仕方なく小銭入れの方を開けると、100円玉がなんとか5枚入っていた。
これならギリギリ煙草が買える。
俺はレジの前に立って、朝から化粧の濃いオバチャン店員に向かって
「マルボロ下さい」
と言った。
オバチャン店員は、新人かつノンスモーカーらしく、なかなかマルボロを探せずにいた。
もたつくオバチャンに少し苛立った俺は、店内をグルッと見渡した。
そしてあるものを見つけてから、
「あ、すいません。やっぱ煙草キャンセルで」
と言ってレジから離れた。
俺が向かったのはデザートが並ぶ陳列棚。
そこで目に入ったのは、芽衣子の好きなプレミアムロールケーキだった。
甘い物が苦手な俺は、芽衣子が美味しそうにそれを食べているのを見ただけで胸焼けがしていた。
でもそれを見た途端に、幸せそうに食べる彼女の顔がふと浮かんできた。
こんなんで彼女のご機嫌が取れるかはわからないけれど、やはり俺がなんらかのアクションは起こさなくてはいけないだろう。
そう決意すると、プレミアムロールケーキを二つと、芽衣子がいつも飲んでいたミルクティーを買って、コンビニをあとにした。