ハジマリ-9
「ねぇ、イサム、気持ちよかった?」
「なんか、自分の中から引っこ抜かれた感じがして――怖かった」
「ふぅん。あの、もしかして、嫌だった?」
「――いや、わかんないけど、嫌ではなかったと、思う。――ごめん、俺、おしっこ漏らしちゃって」
「これ、おしっこじゃないよ。精液っていうのよ」
「精……? なんだ、それ」
「なんかね、男の子が気持ちよくなった時に出るんだって。イサム、はじめてだった?」
「――うん」
イサムは床にへたり込んだまま、小さな子供のようにコクリと素直に頷いた。
精液を大量に放出してしまって、なんだか気が抜けてしまっているように思えた。
男の子って、出しちゃうとこうなってしまうのか……。
あたしも、イッた後はボーッとしてしまうかもしれないけれども。
イサムだけ、気持ちよくなって終わりというのは、何かズルいような気がした。
しかし、予想以上にイサムはこういうことはあまり知らなかったようだ。
子供がどうやって出来るのかも、やはり知らないのだ。
女の子に興味が無いという訳では無いはずだ。ユキのハダカを見たがっていたのだから。
でも、イサムをはじめて射精させたのは、あたしだった。
ユキが嫌いなわけではなかったが、心の何処かに優越感が生まれていた。
「さ、部屋片付けようかな。イサムが、ちょっと汚しちゃったし」
「――なんだよ、待てよ。約束が、違うだろう?」
あたしは内心ほくそ笑んでいた。
イサムがいつまでもへたり込んでいるから、今日はここまでかなと思っていたのだ。
イサムはへたり込みながらも、約束を覚えていた。
あたしの服を脱がせて、ハダカを見るという約束だ。
あんなにいっぱい出したのに、さらにあたしのハダカまで見たがるなんてスケベな男だ。
でも、そのスケベさが嫌じゃなかった。その対象があたしなのが、ドキドキしてしまう。
「何よォ? あたし、もう立ちっぱなしで疲れちゃったんだけどなァ」
「ふざけんな! 約束は、約束だ!」
イサムは全裸のまま威勢よく立ち上がり、あたしの前に対峙した。
ギラギラした目をして、ゆっくり近づいてくる。
ちょっと怖さを感じるような、凶暴な目だった。
今までイサムを怖いなどと思ったことはなかった。むしろあたしがいつもからかっている位だったのだ。
思わずたじろぐと、イサムは抱きついてきた。驚いて、きゃっ、と声を出す。
イサムはそれでもそのまま、相撲を取るようにあたしを近くのベッドに押し倒した。
押し倒されたあたしを見下ろすイサム。
あたしは、晒されっぱなしだった自分の胸を両手で隠した。