ハジマリ-2
「あんたこそ余計な心配をする必要はないわ。それに、ユキちゃん、好きな人いるみたいよ?」
「……何!? 誰だよ、そいつ?」
「そこまでは、教えてあげない」
あたしは、ベーッと舌を出して、逆にイサムを挑発しかえした。
それでも、イサムはしつこくユキの好きな相手を聞き出そうとしてくる。
顔がマジなので、いい加減うっとおしい。
そもそも、そんなことを聞いて、どうするつもりなのだろうか。喧嘩でもしに行くのだろうか。
とは言え、これにはあたしも答えようがない。
だって、嘘なのだから。ユキの好きな相手などはあたしも知らない。
イサムもあたしによく嘘をつくので、あたしもこれくらいはやり返してもバチは当たらないだろう。
それにしても、イサムの深刻な顔が、何かイラついた。
「ちょっと、イサム、必死すぎ。あんた、ほんとうにユキちゃんが好きなの?」
「えっ? いや、そりゃあ……」
イサムは、あたしの問いになかなか答えなかった。
顔を赤くして、ドギマギして、しどろもどろになってしまっている。
答えを待つ必要もなかった。
馬鹿にされるよりも、そんなイサムを見ている方が、余程腹が立ってきた。
デレデレしちゃって。そんなにユキがいいのか?
正直、うちのクラスの男子は大抵ユキに好意を持っているのだと思う。
人気投票をすればダントツ一位なのは、間違いのないところだ。
結局は見た目なのだ。イサムとユキが喋っている所はほとんど見かけたことはない。
つまり、イサムはユキの性格や人となりはよくわからないで、好きになってしまっているのだ。
「イサムとユキちゃんは、似合わないと思うけどなぁ」
「は? お前がそんなこと、勝手に決め付けるなよ」
「ユキちゃんは、サッカーも野球も出来ないし、たぶん知りもしないよ」
「女子は、普通はそんなもんじゃないのか? お前が変わってるだけでさ」
「でも、それじゃイサムはつまんないでしょう?」
「――そんなでもねぇよ」
イサムとは、小さな頃からよく遊んだものだ。
かけっこなどは、昔はあたしの方がだいぶ早かった。今は互角くらいだろうか。
野球はキャッチボールくらいしか知らないが、サッカーはあたしの方がまだ上手いかもしれない。
以前は、イサムを圧倒していたことが、少しづつ追いつかれつつあった。
身長も、この一年くらいで追い抜かれてしまった。
最近は、家の中で遊ぶことも多くなった。
他人から女と遊ぶのはどうのこうのとイサムがある男子から冷やかされたからだ。
イサムがどう思ったかは知らないが、あたしは男子からは女と見られているのだなと確認できた。
少し膨らんだ胸を男子が凝視してくるのは、不快ではあったのだが。
イサムもやはり、そういうことに興味があるのだろうか。
少なくとも、彼と遊んでいる時に、あたしを意識するような素振りは見せていない。