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オーディン
【ファンタジー その他小説】

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オーディン第一話『召喚』-1

アスファルトが雨を弾く音がする。
そこは人気のない高い建物が並び、それが視界を遮って冷たい感じがする場所。
そしてそこに、膝まである黒いコートを着た人物が、そのフードを被り、雨にぬれて立っていた。
その人物は、袖から小さなナイフを取り出すと、親指を少し切り、血をポタポタとアスファルトに落としていく。フードの下の口元は笑っていた。
「“ルシファーさん”姿を現してください」
コートの中から男の声がした。
ピチャ……
男の血が何度か落ちた時、アスファルトに円状の光が刻まれた。

男の右手には彼が『レライエ』と呼んでいる拳銃が一つ握られている。
そして腰には『ストームブリンガー』という剣が鞘におさまって吊されていた。
男はレライエに弾が入っているのを何度も確認した。
そして目の前の光を見つめる。
アスファルトから、人型の動くものがベチャベチャと音をたて、這上がってくるように現れてきた。
「“アラストール”が十二体……さてと、やるか」
男は深い息を吐くと、レライエをアラストールと呼ぶ者たちにむけた。
アラストールたちは皆、鼻から上を仮面で覆い、体型は極めて細く、背中に小さな翼をもつ。武器は両手で握り締めている大きな斧。

一番前のアラストールが動きだした。大きく上に振りかぶった所を下顎から撃ち抜く。
続いて三本の斧が同時に襲いかかってきた。男は高く飛び上がり、一体の頭を撃ち、他の二体は頭を蹴り、倒れた所を容赦なく撃った。
残りの八体は首をガクガク震わせながら、一斉に襲いかかってきた。
ダダダダンッ
四発に聞こえた八発の弾は、一つも外される事なく、アラストールたちを撃ち抜いた。

パチパチパチ……
倒れゆくアラストールの後ろから拍手が聞こえる、最後のアラストールが倒れると“奴”は姿を現した。
「凄い、何度見ても飽きないよ“ファウストくん”」
背広を着たブロンドの人物は、隣にいるアラストールに傘を持たせていて、全くぬれていない。
「そりゃどうも」
ファウストと呼ばれた人物は、頭から足先までぬれている。
「で、今回はもらえるんだろうな、“報酬”」
「……私はこれでも冥界では名が通っていて、私の提供する仕事をするというのはとても名誉な――」
「そんな事は聞いていない」
ファウストは顎を上げ、見下すようにいう。
「ルシファーさんよ、あんたから貰ったのは一つの腕輪とあのバイクだけだ」
顎でビルの下をさす。
『スレイプニル』そこには彼がそう呼んでいるバイクがあった。
黒いボディのバイクで、他のバイクと違うのは燃料がいらない、空を飛べる、冥界に行けるということぐらいで、見た目は普通のバイクとあまり変わらない。
「だいたいアンタの依頼をうける為に、なんで毎回悪魔に襲われなきゃならない」
「それは“仕事”をこなす能力があるか、見極める為だと……毎回説明しています」
「……」
「では仕事の――」
「で、報酬はあるのか」
ややあって、ルシファーは答えた。
「……分かりました『ドラウプニル』を――」
「それは一つ貰っている、他にないのか」
「ドラウプニルは八つで一セットの腕輪。二つあってもいいのではと、思いますが」
ルシファーは鼻で笑った。
「……報酬は、あるんだな」
ファウストがそう聞くと、ルシファーは数回頷いた。
「報酬が貰えなかった時は、お前の命を貰う、覚悟しろ」
そう言うと、ファウストは銃を撃つそぶりした。

こうしていつものように、俺の“仕事”が始まる。


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