11-4
岬花織のアパートの郵便受けには、配達された朝刊が何日分も挟まったままになっていて、その他の郵便物を受け入れまいと幅をきかせていた。
大学のミステリー同好会が企画したショートフィルムの撮影も無事に終了して、アルバイトも途中で抜け出してきていた。
それなのに、と花織は考えていた。
自分は今頃、サークルの仲間たちとお酒を飲みながら盛り上がっていたはずなのに、この状況はどういうことだろうと疑問を抱えている。
自宅アパートの一室である。
三脚の上のビデオカメラがこちらを狙っているということは、これは撮影のつづきなのだろうか。
どんな台詞をしゃべって、どんなリアクションをすればいいのか。
カットのタイミングはいつなのか。
こんなシーンは必要なのか。
打ち合わせと違うことばかりだった。
目の前に、撮影スタッフらしき男がいる。
モンスターのような仮面が、顔の上半分を覆っている。
被写体の花織は、肌を隠すものを何一つあたえられていない。
ついでに体が熱い。呼吸も熱い。性感帯が濡れている。
あそこが、おかしくなっちゃう──。
奇跡のヒロインが大胆に喘ぐと、男は膣内の陰茎を前後に振り抜き、たまに舌で舐めて、指でもって掻きまぜたりもする。
「あああ……だめえ……あふあっ……あん……」
花織の深層に淫乱な分身が棲んでいるかぎり、この快楽からは逃れられない。
自分がレイプされているということは、心のどこかで気づいていた。レイプは恐怖を伴う。
しかし、恐怖の先に快楽があった。
「キョウフノサキニ、カイラクガアル」
男がつぶやいた。犯しても、犯しても、犯し足りないと思っている。
「ああっ、ああいいく、いくう、いくう、いっちゃう、あん、あん、あああ……」
花織は最高の瞬間を過ごしていた。
オーガズムがほとばしり、子宮を抱えて痙攣していた。
すでに七度目の絶頂だった。
冷ややかであり、ぎらぎらとした眼差しが、花織の日常を根こそぎ奪ったのだ。
絶頂、意識喪失、覚醒。そんな負のサイクルが、花織の中で終わることなくくり返される。