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街の風景に溶け込んでいるその後ろ姿は、とても魅力的で、無防備だ。
花織よりも高い位置からの視線が、目標物を捉えて背後から近づいていく。
さりげなく相手を窺いながら、それはもう日常の中のしぜんな出来事と変わらないモーションで、陰湿な目的を果たそうとしていた。
緊張した息づかいがすぐそばまで迫っているというのに、花織は首を傾げて音楽に聴き入っている。
二人のあいだに距離はない。
あ──。
気配に気づいた花織は振り返る。
そしてその人物の顔を確かに見た。
*
バスは時刻通りにバス停にさしかかったが、そこに人がいないのを確認すると、速度を上げてそのまま通り過ぎた。
風景がフェイドアウトしてスクリーンが真っ暗になった直後、『デリシャス・フィア』のタイトルが浮かび上がり、流血のように文字が溶けていく。
ここでエンドロールが流れた。
岬花織
霧嶋優子
小田佑介
黒城和哉
平家悠利
美山砂羽
徳寺麻美
植原咲
秋本文子
数馬良久
S大学ミステリー同好会スタッフ一同
動画が終わるタイミングで部屋の証明が点いて、学生の一人がパソコンからUSBを抜く。
それを合図に、気持ちいいほどの拍手と歓声が部屋中に湧き上がり、そこに居合わせた全員の表情に光が差した。
ハイタッチ、笑顔、肩を組み合う仲間。
このときばかりは男女のボーダーラインを越えて、それぞれが睦まじく喜びを分かち合った。