9-1
あいつから直接電話がかかってくるときは、何かやらかそうと企んでいるときと決まっている──。
小田佑介から着信があった時点で、黒城和哉はまたもやぴんと閃いた。
簡単な用件を話して電話はすぐに切れた。
相変わらずさっぱりしたやり取りだった。
小田の指定してきた喫茶店までは徒歩で十五分ほどである。
そこかしこの店はすでにシャッターを下ろしていて、夜道の暗がりが景色全体に濃く広がっている。
黒城が到着すると、店内のいちばん隅のテーブルに小田は着席していた。
右手を上げて合図を送ると、向こうもおなじことをしてきた。
黒城は口元だけで笑ってみせて、小田の向かいに座る。
「コーヒーは注文しておいた」
「悪いな」
「さっそくなんだけどさ、ようやく例の強姦事件が解決しそうなんだ」
「さすがだな。でもさ、すでに三人の被害者が出ているんだぜ」
「それは俺としても悔いが残るし、彼女たちには悪いと思っている」
「悪いのは犯人だ。それに警察の手際も悪い」
「そうだな。けど正直なところ、優子と花織だけでも無事ならそれでいいと思っている」
テーブルにコーヒーが運ばれてきたので、一旦会話が中断した。
あらためて店内を見まわしてみると、時間が時間なだけに客は少なかった。
「犯人は誰なんだ?」
黒城の目が鋭く光った。
「最初の推理通り、いちばん怪しいのは平家先生だ」
「だろうな。あの教授は女子からの人気がある分、逆に敵も多い。あの歳で結婚できないってことは、それなりに変な性癖とか持ってんだよ」
「平家先生の研究チームの学生ばかりが被害に遭っているし、あの二つのアダルトサイトにだって絡んでいるかもしれない」
「自分の可愛がっている学生たちをそこから見つけ出して、この画像を親にバラすとか何とか脅しをかける。あとは自分のやりたいようにレイプするだけだ。最低だな」
黒城はコーヒーを一口すすると、苦い顔をした。
小田もつられてコーヒーをあおったが、何の味もしないといったふうに真顔になり、こう言った。
「それは違う」
対面の黒城は二口目を飲む動作をぴたりと止めた。