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「大したやつだな。俺がもし女だったら、確実に小田に惚れているよ。だけどさ、被害者の体内に残されていたのは、俺の精液じゃなかったんだぜ?」
「そんなもの、ネットで買えば済むことだ。サイバーポリスの目の届かないところにも、そういうサイトがいくらでもある。女の振りをして精液が欲しい旨を書き込んだ途端、飢えた連中が飛びついてきたことだろう。思惑通りに手に入れた精液をどう使ったのかは、ここんとこマスコミが得意げに垂れ流している報道の通りだ」
「魔女狩りの最後の仕上げとして、カムフラージュを施した……っていうあれか」
黒城は小田から目を逸らした。
カウンターの横に、客の注文を待ちぼうけているウエイトレスの姿がある。
メイド喫茶のコスチュームまでとはいかないが、少し年上のバイトのお姉さんが着こなす制服が、彼女の貞操に隙をつくっているように見えた。
下着の柄や局部の色までもが透けて見えそうだった。
しかしそれが適わないとわかると、やるせないといった感じでテーブルに視線を戻した。
「黒城、おまえいつだか言ったことがあったよな?自分は不感症なんだって。あれは半分冗談で、半分ほんとうのことだったんだな?」
黒城は言い返さない。
「誰にも知られるはずがないと思っていたことを、いちばん知られたくない人に知られてしまった。それが秋本文子だ。おまえは彼女を愛していた。いいや、今でも愛している。そして家庭がある彼女と男女の契りを交わそうとしたとき、彼女を満足させることができず、おまえ自身も満たされなかった。そこで考えた。どうすれば認めてもらえるのか。そしておまえが出した答えが媚薬だった。これさえあればと思ったが、結果的におまえも媚薬に依存してしまった」
親友同士の空気はもうその場にはなかった。
黒城はポケットから携帯電話を取り出して、時刻を確認した。
二十一時五十分を示している。
「そろそろ時間だ。もうすぐ最後の魔女があらわれて、優子を見つけるだろう。どうする?」
「俺は刑事じゃない。ただの推理オタクだ。こんなくだらない推理ゲームも、今回限りで終わりにするつもりでいる。そして何より、おまえを信じている」