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「ゲームはリセットすればやりなおしが利くけど、現実はそうはいかない。小田のことだから、今回の推理ゲームも首尾よくクリアできそうなんだな?」
「まあまあってところかな」
「それに今回の依頼者が花織だったから、そこに特別な思い入れがあった。違うか?」
ちっ、と舌打ちをして、小田は苦笑いした。
「黒城の親父が『ディープ』をつくったのは知っていたけど、まさか息子のおまえがそれを利用するとはな」
黒城が無言のままだということを確認してから、小田はつづけた。
「まずおまえは、例の二つのアダルトサイトを立ち上げて、そこからターゲットを物色した。誰でもいいってわけじゃない。おまえの好みにもよるけど、そんなことよりも重要なポイントがあった。母校で屈辱を味わった、あの日の教育実習のことだ。平家先生に気に入られようと思うあまり、おまえは力が入りすぎて、結局その女子生徒からの嫌がらせに負けて、平家先生からも突き放された」
ウエイトレスが気を利かせて水を持ってきた。
グラスの中に四角い氷がいくつも積み重なっている。
「女性への偏見と失望、それに平家先生への怒りが入り混じった感情がおまえを狂わせた。これでターゲットは決まった。教授の研究チームの名簿から相手を選び、チーム月から金の順に一人ずつレイプしようと企んだわけだ。おまえは媚薬についてもそれなりに知識があったから、それを利用しない手はないと思った」
氷が溶けて、角がまるくなってきた。
「ここからはさっきも言ったように、架空のメールマガジンでサプリメントの広告を送りつけ、彼女たちにアクセスさせる。成功すればそれでいいし、失敗すればターゲットを変更すればいい。もちろん初回は無料だが、サプリメントの中身は依存度の高い媚薬なわけだ。体調の変化を自覚した彼女たちがリピーターになるのは確実だった」
手つかずのグラスに結露が浮いている。
「性的ストレスを解消しようと、彼女たちは試行錯誤する。そこへ今度はアダルトサイトの存在を匂わせるメールを送る。彼女たちは、藁(わら)をもつかむ思いでそこにアクセスするだろう。ブログを立ち上げ、淫らな画像を投稿しているうちに、罪の意識は消えていく。それと引き換えに新たな意識があらわれる。アブノーマルな刺激を味わいたいという潜在意識だ。そしておまえは彼女たちの心の隙をついて、最初の計画通りにレイプしていった」
小田の口調は冷静そのものだった。
しかし黒城のほうも顔色を変える様子がまるでない。