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「そんな危ない媚薬を、花織たちはどうやって手に入れたんだ?」
「これも俺の推測だが、彼女たちは媚薬だとは知らないまま、いつの間にか媚薬を摂取していたんだと思う」
「フェイクか」
「あまり自信はないけど、遠くもないはずだ。つまり、ダイエット効果のあるサプリメントだとかうたった商品を、通販サイトで彼女たちに買わせておく。しかし中身はサプリメントなんかじゃなく、恐ろしい媚薬だった。何も知らない消費者は、何の疑いもなくそれを飲みつづけ、いつの間にか媚薬に依存しはじめる。そうなればもう犯人の思う壺だ。体は性欲でおかしくなり、犯人に服従しないと新たな媚薬は手に入らない。気づいたときにはもう手遅れになっている。負のスパイラルからは絶対に抜け出せないわけだ」
それはあるかもな、と黒城は表情で同意を示した。
「もう一度訊くけどさ、平家先生は犯人じゃないんだな?」
「それは間違いない」
「レイプされた順番と、研究チーム月から水までの順番が一致するのは、偶然にしてはできすぎていると思うぜ」
「そこんところは、ある人物に会って話を聞いてみて、俺は確信したよ」
「もったいぶるねえ」
二人同時につくり笑いをして、二人同時に真顔になった。
「俺が面会した人物は、秋本文子さんだ」
その名前が一体どれほどの効力を示すのか、小田は黒城の反応を細かく窺っていた。
「その人も魔女と関係があるのか?」
黒城は小田の目の奥をじっと見据える。
小田は動じない。
「彼女は、犯人ともっとも近い関係にある。それに、犯人の過去についても、彼女からいろいろと聞かせてもらった。平家悠利という男が犯人にとってどのような存在だったのか。実の父親のつくり上げた違法なシステムに対して、どんな評価をしていたのか。それらすべてが今回の強姦事件の動機につながっていたんだ」
「いよいよ推測ゲームも大詰めってわけだ。刑事よりも刑事らしいよ、小田刑事」
頭痛をこらえるような表情をしたあと、黒城はコーヒーの黒い表面を見つめた。