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「何が違うんだ?」
「さっき黒城が言ったように、俺もずいぶん最近までは平家先生を疑っていたよ」
「おまえらしくないな。平家先生がいちばん怪しいって自分で言っておいて、今度はそれを撤回するのか?」
「もちろん怪しい。けど犯人じゃない」
「どういうことだ?」
飲む気もないのに黒城はコーヒーカップを傾けて、不機嫌そうに喉を鳴らした。
「じつは俺、いろんな人物の身辺を『ディープ』で洗いなおしてみたんだ」
「それで?」
「それでだ。優子や花織のことを調べてみたら、やっぱり出てきたんだ、あれが……」
小田の言った意味を黒城は理解した。
「アダルトサイトか……」
「犯人に狙われているかもしれないとわかった時点で予想はしていたけど、まさかあの二人も魔女だったとはな」
「プライベートなことは誰にもわからないものさ」
黒城はあきらめのジェスチャーをした。
「花織の部屋に行ったときに、偶然見つけたんだ」
言葉を出し渋る小田に向かって黒城が身を乗り出す。
「あいつ、ローターを隠し持っていたよ……」
「そうか。だったら優子の部屋にも、たぶんおなじ物があるのかもな」
「しかしだな、彼女たち五人が最初からそんな性癖を持っていたとはとても思えない。これは俺の勘だけど、何かのきっかけがあったに違いないんだ」
「それが媚薬ってことだな?」
小田はうなずいた。
「普通の媚薬なんかじゃない。おそらく『デリシャス・フィア』だろう」
「その答えに導いたのが、この俺ってわけだ」
「まあな」
「あれは素人には危険な薬だ。使い方を間違えれば、脱水症状だけでは済まない場合もある」
「そこだ。被害者三人が脱水症状を訴える書き込みをブログに残していた。それに、花織も最近になって水筒を携帯するようになった。気づいていたか?」
黒城は黙ってうつむいた。そして重たそうに頭を上げる。