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焦げ茶色のクラシックカラーが鮮やかなメタリックの車体に、真新しい初心者マークが貼りついている。
タイヤの溝も深いジグザグ模様を描いているし、どこかをぶつけたような傷やへこみも見あたらない。
バックミラーに可愛らしいチャームをいくつもぶら下げて、ステアリングカバーのキャラクターが若い女性ドライバーを仄めかしている。
晴れた日の昼間だというのにヘッドライトを点けっぱなしにして、ワイパーはフロントガラスをから拭きしている。
車内をうかがってみると、運転席と助手席に人影はなかった。
後部座席に目をやれば、スモークガラス越しに女性の姿が確認できた。
若い女性だった。おそらくこの車の持ち主だろう。
事故車でないところを見ると、酒を飲みすぎて酔いつぶれたまま眠ってしまったか、あるいは酔いを醒ましているのかもしれない。
だからといって、エンジンもかけっぱなし、それに駐車スペースから大きくはみ出しているこの状況は、迷惑以外のなにものでもない。
トラブルに巻き込まれるのはごめんだが、このまま放置しておくのも後味が悪い。
意を決して窓をノックしてみる。
手指の骨が鈍い音をたてた。
しかし車内の女性は動く気配すらない。
泥酔していて聞こえないのだろうか。
今度はドアに指をかけてみる。
するとドアはあっけないほど軽々と開き、新車の匂いと芳香剤の香りが混じった雰囲気が、たちまち外へ漏れ出してきた。
リアシートに横たわる女性。
その有り得ない姿を目にしたとき、さっきまでの正義感は跡形もなく消滅していた。
込み上げてくる悲鳴を呑み込んで、彼女のことを観察してみた。
両手足首には無機質な手錠、脱げかけのシャツからのぞく乳房、そして彼女にふさわしくないものが局部を犯している。
回転しながらのろのろとうごめくその玩具が、恥部から溢れる分泌液を白く泡立てていた。
ねちねち、ねちねち、と陰湿ないたずらに掻きまわされる膣をまもりきれない、薄い肉のひだ。
薄目を開いて潤んだ瞳はどこを見つめているのか。
口元には唾液のすじが糸を引き、萎れそうな声を、うっ、うっ、と引きつらせている。
おそらく彼女の体は限界を超えていたのだろう。
シガレット電源と直結させた異様なバイブレーターによって、逃れられない快感と、女性器を持って生まれてきた宿命を感じているのかもしれない。
剥がれ落ちたネイルチップが意味もなくきらきらしていた。
座席のクッションに新しいシミができるたびに、彼女のことが哀れに思えてならない。
淫らな実験を施されたまま棄てられた、人間の姿をしたマウスのようだった。