6-3
会話がはずまなくなってきた二人の視線のずっと先に、なにげに水を差す人物が見えた。
S大学教授の平家悠利が数人の女子学生らを従えて、悠々と歩いていくところだった。
気取った笑顔でわざとらしく機嫌をうかがうその表情は、遠目に見ても優子の気分を悪くさせた。
「相変わらず不健康そうな顔色してるんだから。あんなに色気を振りまいて、意味がわかんない」
「そうだよね。あれだけ女の子に人気があるのにまだ独身だなんて、見かけによらないね」
冷たい視線を送る優子の横で、花織はあたたかな眼差しを平家に向けていた。
「あたし──」
突然、優子が立ち上がる。
「ちょっと気になることがあるんだよね」
「気になるって?」
「二年の徳寺麻美さんがレイプされた現場に行って、確かめたいことがあるの」
「あのショッピングモールのトイレ?」
「平家先生につながる決定的証拠があるような気がする」
「そんなのとっくに警察の人が調べてるんじゃない?」
「まあね。だけどあの色男先生の仮面を剥がして、花織にだって目を覚まして欲しいわけ。これは親友からの忠告だからね」
「あたしは変な気を起こしたりしないよ」
花織は片手を振って応える。
頭の片隅には、いつだって小田の顔がチラついているのだから。
「あの平家先生にだけは心を許しちゃだめ。単位のことを交換条件に言い寄られたとしても、あの人は花織が思ってるような理性は持っていないの。いい?」
「ちょっと考えすぎだよ」
「男の人はみんな、女の子のおっぱいとあそこにしか興味がないんだから。花織にだけは変な虫がつかないように、この霧嶋優子がまもってあげる」
胸の前でガッツポーズをする優子。
「口ではエッチなことしか言わないけど、やっぱり持つべきものは親友だね」
「安くしといてあげるから」
似た者を呼び合うような若者たちの声がまた秋空に吸い込まれていって、気まぐれに姿を変える雲のかたちに、季節が深まるのを感じた。