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警察の捜査には、なかなか進展が見られなかった。
容疑者として拘留中の数馬良久の顔写真を徳寺麻美に見せても、彼のことなんか知らないと言うばかりである。
では一体誰に強姦されたのだと尋ねても、知らない人という以上の言葉が返ってくることはなかった。
行方不明の植原咲にしても、事件直後からの足取りがまったく掴めず、彼女が所持していると思われる徳寺麻美の携帯電話にも、彼女自身の携帯電話にもつながらない。
一ヶ月前に被害に遭った美山砂羽の強姦事件もおなじく、新たな容疑者も浮かんでこないまま未解決なのである。
そんな色っぽい事件ばかりがつづいている当のS大学では、スケジュール通りに学園祭の準備が着々と進められていた。
皮肉にも、ハロウィンの仮装衣装でもある魔女の黒いマントやレオタードスーツを着たマネキンが、道行く学生らの目を楽しませていた。
キャンパス内のあちこちで黄色い声が輪をつくり、すぐそばでレイプ魔が息をひそめているとは思えないほど普通の日常が、少しのあいだ事件のことを忘れさせてくれる。
「優子は合コンの相手に何を望んでるの?」
ベンチで足をぶらぶらさせながら花織が言った。
「そうねえ、まだ結婚とか考えられないから、とりあえず楽しければいいのかなあ、なんて。花織は?」
「あたしは好きな人ができたら一途だから」
「確かにそうだよね」
「貯金ができるくらい働いたら、さっさと家庭に入って子どもをつくってもいいかなって思ってる」
花織がしみじみと言うものだから、優子は意地悪してみたくなった。
「奥さん、可愛い顔して、夜はけっこうはげしいの?」
花織に言い寄ってふざける優子。
「いやだ、やめてよもう」
「花織が人妻だなんて想像したら、レズっ気が出ただけじゃん」
ふふっと二人は笑い声をハモらせて、この信頼関係がいつまでもつづけばいいなと思った。
「そういえば花織、最近いつも水筒を持ち歩いているよね?」
「ああ、これね。すぐに喉が渇いちゃって」
「ふうん……」
自分もそうだと思いながら、優子は味のない返事をした。
「無理なダイエットをしているわけじゃないから、心配いらないよ」
「それならいいんだけど」