5-1
『大事な話があるから、二人きりで会わない?』
花織からのメールにはそう書いてあった。
もちろん、彼女に下心なんてものがあるはずもなく、それは小田にもわかっていた。
駅からは少し離れているものの、陽の落ちたばかりの薄暗い道沿いには、コンビニエンスストアの明かりや街灯が途切れることなくつながっていて、それなりに人通りもある。
小田が花織のアパートに着く頃には、途中で買っておいた鯛焼きも冷めかけていた。
「俺だ」
「相変わらず時間に正確だね」
インターホンでみじかい言葉を交わして、間もなくドアが開く。
花織は巻き髪を指でほぐしながら、小田を出迎えた。
小田にとって、花織の部屋を訪れるのは初めてのことではない。
それでも、一人暮らしの女性の部屋というのは独特な匂いがして、男子禁制の構えが居心地を悪くさせるものである。
「散らかってるけど、気にしないで」
言った割に片付いた部屋に小田が上がると、タイミングよく花織がコーヒーを運んでくる。
「鯛焼き、買ってきたんだ」
「ありがとう」
おそろいのマグカップが並ぶ。
「インスタントコーヒーしかないから、我慢してね」
「おかまいなく。俺らだってインスタントみたいな付き合いだしな」
「そういうことにしておいてあげる」
しばらくのあいだ、大学でのお互いの話やら就職のことやらで、それとなく進捗状況を確かめ合っていた。
「そうだ」
突然思い出したように花織が立ち上がると、レターケースから封筒を取り出して、小田に差し出した。
「何かの役に立てばいいと思って」
一瞬、彼女のネイルの色に目を奪われながら、小田は封筒を開けた。
写真が二枚入っていた。
これは?と目の表情だけで問いかける小田。
「おなじサークルの二年の子たちに訊いてみたの。徳寺麻美さんと、植原咲さんて、どういう子なのかってね」
「それでこの写真を?」
「貸してくれたわけ。二人とも彼氏はいたみたいなんだけど、誰もその彼氏を見たことがないって言うし、なんだか変だと思わない?」
「その辺りは警察も聞き込みをしているだろうし、いずれ明らかになるさ」
「うん」
「で、写真のどの子が誰なんだ?」
「そうそう。こっちの二人で写っているほうの右側の子が、被害者の徳寺麻美さん。それからもう一枚のほうに写っているのが、行方不明の植原咲さん」
「またずいぶんと、メイクに気合いがこもっているな」
「これはたぶん、昨年のミスキャンパス選考会のときのやつね。あたしも優子も、彼女と一緒にいたから間違いないと思う」
小田は二枚の写真を交互に見比べて、彼女たちを自分の研究チーム取り込んだ平家教授の思惑がわかったような気がした。