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小田の脳裏には少なからず花織との未来が描かれていて、引き出しの奥の秘密を知ったところで、その思いは変わらない。
「花織の秘密も検索してみるかな」
「そんなことしたら絶交だからね」
「冗談だよ」
小田は笑った。
花織が脚を組み替えると、小田の目がそれを追う。
彼女のスカートの中の事情など、今の小田にはとうてい推理できそうになかった。
コーヒーの湯気が立ち上っているうちに、今度は植原咲のブログを覗いた。
そこでもやはり若いヌードが披露されていた。
乳房も局部も、彼女のありのままが画像で掲載されている。
「気づいたことがあるんだけど」
ブログの中に共通点を見つけた花織が声を漏らす。
「彼女たち三人とも、体調の変化をブログに書いてるみたい」
「それはつまり、月経のことか?」
「そうじゃなくて、かるい脱水症状を訴える文句が目についたから、何かの内服薬の副作用なんじゃないかと思って」
「だとしたら、ダイエットのためにサプリメントを過剰に摂取したとか、ハルシオンみたいな眠剤の可能性もあるか」
「もしも得体の知れない違法ドラッグを飲んだのなら、その入手ルートも気になるところだよね」
「そこに真犯人が絡んでいそうだな」
「ネット売買で何でも買えちゃうのも恐いけど、闇の市場っていうか、その規模だって想像できないもの。恐いね」
ここにきて花織の口数が増えたことに、小田は意味深な笑みを見せる。
「人の顔見て笑わないでよ。ひょっとして、あたしの魅力に心が動いちゃった?」
「頼もしいよ」
小田の言葉に照れ笑いをして、花織は、ふふっと鼻を鳴らした。
美山砂羽、徳寺麻美、植原咲。
この三人がアダルトブログのユーザーだったことが確定した。
さらにその姉妹サイトでは、魔女コンテストが盛り上がりを見せていて、そのイベントにも彼女たち全員が画像を投稿していた。
そこに目をつけた何者かが薬物を使って乱暴をくり返し、『魔女狩り』だと囃し立てるマニア連中の注目を集めていることもわかった。
「ただ賢くて、得する顔をしているだけかと思ってたけど、花織も意外に勘の鋭いところがあるんだな」
「得する顔って?」
「可愛いってことだよ」
一瞬、真顔になった花織の耳が赤く染まり、ピアスの光輪もよく似合っていた。
「そういうことは、好きな女の子にだけ言いなさいよ……」
まともに小田の目を見れない花織が視線を下げると、彼のたくましい胸板と腕が映った。
心臓がどきどきして、血液のめぐりが恋心を錯覚させていく。
「それじゃあ、今日のところは帰るよ」
「うん……」
残念な気持ちの花織。
「ドラッグのことなら黒城のやつが詳しいんだが、あいつはまだ体調が優れないみたいだし、俺なりに調べてみるよ」
「あたし、小田くんの役に立てた?」
「今の俺には花織が必要だ。またよろしく頼むな?」
「まかせといてよ」
推理ゲームにも進展が見られたが、二人の関係にもわずかな進展があったのだろうと、それぞれが熱を上げていた。
「ちゃんと、戸締まりしとけよ?」
「うん、おやすみなさい」
交わす言葉がいつまでも尾を引いていた。