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彼の作業にはどこにも無駄がない。
そんな感想を抱きながら、花織は小田のパソコンワークの手際の良さに見惚れていた。
「かっこいいね」
「よく言われるよ」
付かず離れずの会話に恋を意識してしまうのが、若い二人のしぜんの流れである。
四人でいるときには見えなかった互いの魅力が、性の対象に変わっていくのも、仕方のないことなのだろう。
小田はジーンズの一部に違和感をおぼえ、花織はインナーの生地を湿らせた。
ちょっとした生理の変化さえも顔に出さぬように装い、張りつめた空気を精一杯吸い込む二人。
パソコン画面にはすでに『ディープ』の検索キーが表示されている。
深層の扉が開かれるのを待っているのだ。
沈黙を破るように小田の手指がブラインドタッチをすると、次の動作で、直近の強姦事件を画面に表示させた。
女性を差別するような文字が、次から次へと流れていく。
猥褻事件の数だけ、傷ついた女性がいるはずである。
小田はため息をついた。
「これじゃない?」
花織の視線が何かを捉えた。
「この、一ヶ月前の強姦事件の被害者が、うちの大学の女の子だよ」
花織は興奮気味に言った。
「被害者の女性は、S大学一年で十九歳の美山砂羽さん。自宅アパートで発見されたとき、着衣を脱がされた全身をロープで縛られた上、局部には玩具が埋まっていた。周辺や体内には複数の男性のものと思われる体液が付着しており、かるい脱水症状の所見があったこともわかった。美山砂羽さんと連絡がつかないことを不審に思った知人女性がアパートを訪れ、事件が発覚した」
小田がここで一息つく。
花織に負担させるには、つらすぎる現実である。
それでも小田はつづけた。
「玄関ドアは無施錠だったという。現場に残された遺留物の鑑定結果から浮上した男性数人を取り調べするも、身におぼえがないと犯行を否認。未だ犯人逮捕には至っていない。アパートを訪れた第一発見者の女性は、被害者とおなじS大学二年で二十歳の徳寺麻美さん──彼女とつながった?」
思わぬ収穫に、小田は声を上ずらせた。
「美山砂羽さんを発見した徳寺麻美さんがおなじ被害に遭って、今度は植原咲さんが狙われているってわけだね」
花織もできるだけ冷静さを保ったまま、しかし自分自身を抱きしめながら言った。
自分のそこにロープが食い込み、しかも淫らな異物が挿入されたらと思うと、まだ見ぬ悪夢にいよいよ恐怖を感じるのだった。
小田は、徳寺麻美の画像が投稿されていたアダルトサイトと、その姉妹サイトの存在を花織に告げた。
そして花織が借りてきた写真を元に、両サイト内での確認作業へと移る。
そこに動かぬ証拠があるのだと信じて止まなかった。
「魔女狩りっていうから、中世のヨーロッパで起きた出来事と関係があると思ってたら、ただ性欲を満たすために女の子をおそってるだけじゃない。ほんとに最低」
花織の横顔は不機嫌そうに見えて、けれども頬の血色には女の色素がかよっていた。
「やっと見つけた。彼女たちはやっぱり、魔女コンテストに画像を投稿している」
小田が正義の眼差しで言った。
「もしかしたら、徳寺麻美さんと一緒に写真に写ってる女の子が、美山砂羽さんじゃない?」
花織のその一言で、パズルのピースがまた一つはまろうとしていた。