5-2
「どっちも可愛い子だよね。小田くんはどっちがタイプ?」
「よせよ。それよりさ、徳寺麻美はもう退院しているんだろう?犯人のことについて、なにも言っていないんだろうか」
「そのことなんだけど、しばらくは大学にも顔を出さないだろうし、犯人のことは、知らない人だって言ってるみたい」
「ほんとうに知らない人物か、自分に都合が悪くて言えないかのどっちかだろうな」
「それとね」と花織が写真の彼女たちに視線を落とす。
「うちの大学の女の子がもう一人、強姦の被害に遭っているみたい。しかもその子、あの平家先生の研究チームにいたんだって」
「どのチームなんだ?」
「チームマンデーだよ。確か一年の美山砂羽(みやまさわ)さんて言ってた」
「そういうことか。すでに被害に遭っている美山砂羽が月曜、今回の被害者の徳寺麻美が火曜、行方不明の植原咲が水曜。みんな平家先生のところの研究生となれば──」
「偶然じゃなさそうだよね」
「植原咲はまだレイプされたわけじゃないけど、それが明らかになれば、次の木曜チーム、さらに金曜チームの誰かが狙われるんじゃないだろうか」
「うん、そうなるね……」
花織は背すじに冷たいものを感じた。
優子と自分にも危険が迫っているかもしれない。
そう思うと逃げ出したくてたまらなくなる。
花織の表情が不安の色に染まっている。
カーディガンの胸元が上下に揺れていて、そこに手をあてたまま呼吸を継いでいる。
みじかい丈のスカートから伸びる脚は、黒いパンティストッキングのおかげでなおさら細く見えて、もう片方の手を内もものあいだに挟ませている。
花織にしてみれば、無意識のうちにそんな恰好になっただけである。
けれども小田の目を通せば、左手は胸に添えられているし、右手はスカートの中ぎりぎりのところに触れているしで、自慰行為を想像させる要素がそろっているように見えるわけだ。
若い女性特有の甘い生活臭が、今さら小田の鼻腔をくすぐり、愛しくも汚れた眼差しで彼女を見つめてしまいそうになる。
見つめ合ったまま二人の距離が縮まる。
そして小田の手が花織の肩に伸びて、優しく触れた。
「大丈夫さ。事件の容疑者だって捕まっているんだし、平家先生も教授の立場がわからない人じゃない」
「そうだけど、植原咲さんがまだ見つからないし、共犯者がいたとしたら優子もあたしも……」
「それならばこうしよう」
言いながら小田は花織から距離をおいた。
「パソコンも持ってきているし、これから付き合ってくれないか?」
「何をするの?」
「黒城のやつ、このところ具合が悪いって言ってるし、あいつの代わりを花織に頼みたいんだ」
「小田くんの推理ゲームのアシストをするわけだね」
「まあな。今回の事件が解決したら、俺もこんな推理ごっこからは足を洗うつもりだ。花織や優子をまもる意味もある。どうだろう?」
「そうだよね。あたしだって酷いことされたくないし、小田くんにばかり甘えている場合じゃないもん」
「その調子だ。女探偵の名推理に期待しているよ」
「協力はするけど、ほんとうにあたしでいいの?」
もうずっと気になっている花織の艶めかしい脚から視線をはずし、小田は相手の目を正面から見つめ、かるく頷いた。