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昼食を終えた教授たちの一行が、こちらに向かって歩いて来るところだった。
その中に平家悠利(へいけゆうり)の姿もあった。
いかにも神経質そうな青白い顔に、毛筆的な口髭と顎髭をちょんちょんと生やした無精面。
それでいて二枚目ときてるから、女子学生からのウケもいい。
黒縁メガネの奥の鋭い目つきが花織を捉えると、やや大げさに紳士を気取ってこちらに近づいてくる。
「おや?君らはいつも一緒にいるようだが、今やっておくべきことを忘れていないだろうね、岬くん?」
「はい。次回の研究発表までには、良い報告ができるようにしておきます」
席に着いたまま、上目づかいで花織は言った。
「行き詰まったときには、遠慮なく僕に訊いてかまわないからね」
彼の視線が横に移る。
「それから霧嶋くんのチームは、あれで進めていってもらえれば、海外チームとのディスカッションにも参加させてあげられる」
平家悠利は後ろ手を組みなおし、優子の目をきりっと見つめる。
「あれは平家先生の助言があったおかげです。あたしはほとんど補佐役みたいなものなので」
優子は長い髪を耳にかき上げながら、友好的な笑みをつくった。
小田と黒城は教授には目もくれず、花織と優子の内心を読み取るように、そのやり取りを見物していた。
花織は教授に対して何がしかの思いを抱いているように見える。
優子には教授の存在が煙たいふうにしか見えていないのだろう。
それぞれに目の色が違うので、何かおもしろいことが起こりそうな予感が小田の中にはあった。
「残りの日数を無駄に浪費するだけなのか、それとも有意義に過ごすのかは君らの勝手だ。歴史に名を遺した偉人たちの生き様、そこを追求してみるのも一興だと思うがね?」
それじゃあ、と平家は関節の太い手を振り上げて、爽やかな香水の匂いを置き土産にして去った。