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岬花織、霧嶋優子、小田佑介、黒城和哉。
なにかとこの四人で行動することが多く、男女の友情以上でも以下でもない関係を楽しみ、なんでもかんでもきらきら輝いて見える年頃である。
「くだらないことにこそ情熱を費やす価値がある」
みんなでそんなことを言ったか言わなかったか、何にせよ居心地は悪くなかった。
大学三年の秋、小田は自宅アパートの一室でノートパソコンと向かい合っていた。
そんなものはナルシストの象徴だ、と煙たがられたことのあるクラシック音楽を聴きながら、やりかけのレポートに見切りをつけて、さっそく仕事に取りかかる。
「たかがレポートだって、俺にとっては婚姻届みたいなものだ」
独り言をつぶやきながらも、その指先と、視線と、若き頭脳は、ネットワークに導かれて機械的に動作している。
検索にヒットしたものは、どれもこれも小田の興味を湧かせるものとはほど遠く、新聞記事以上の情報は得られそうもない。
だろうな──。
コーヒーカップをあおって、至福の息を吐くと、別のフォルダーからファイルを呼び出して再検索した。
通称『ディープ』と呼ばれる検索サイトである。
その情報量は通常のそれとは比にならないほど膨大で、その名の通り、あらゆる事柄の深層を見透かすことができるのだ。
どれだけ隠そうとしても、出るところには出るもんだな──。
小田の黒目が何かを捉えて収縮する。
「被害者女性、徳寺麻美さん、二十歳。市内S大学の二年生。ショッピングモール内の女子トイレで全裸の状態で発見される。強姦された痕跡があり、近くの病院で検査入院中」
さらに読み進む。
「第一発見者の女性、植原咲さん、十九歳。おなじくS大学の二年生。被害者の携帯電話を所持したまま現在も行方不明」
なるほど、花織の心配した通りの目が出たな──。
今回の事件に関わった人物の名前などは、新聞記事には一切露出されていなかった。
デリケートな内容だから、それも仕方がないのだろう。
しかしこうやって被害者らの実名が出たことで、自分の役割は果たせたのだと小田は思った。
けれども、彼女らが自分とおなじ大学の後輩だったものだから、さすがにやりきれない気持ちは隠せなかった。
花織や優子に忠告する意味も込めて、この事実を彼女たちに告げなければならない。