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「合コンはしばらくパスするから」
霧嶋優子(きりしまゆうこ)と待ち合わせたカフェで、バジルの効いたパスタをフォークに巻きつけながら岬花織(みさきかおり)は言った。
「パス、何回目だっけ?」
「過ぎたことは忘れることにしているの」
「淡白だこと」
「そういえば、このあいだ貸してあげた千円、いつ返してくれるの?」
「それも過ぎたことでしょう」
「死活問題に関わることは別だよ」
やれやれ、と優子は鼻で深呼吸して、カードでふくれた財布の中から千円札をつまみ出し、テーブルの上に置いた。
花織の手がそれに伸びたとき、「今朝の新聞、もう読んだ?」と今日いちばんの真顔で優子が切り出す。
「新ドラのこと?」
「それって、わざととぼけてるでしょう。ほら、例のあれよ。ショッピングモールで強姦事件があったっていう記事」
「それなら見た。あそこって、あたしたちもよく行くところだし、洒落になんないよね」
「後輩の子たちもよく見かけるから、まさか、ってことになってたりして」
「ちょっと、優子。ほんとうに洒落になってないし」
花織はまわりの様子を窺い、自分たちの話に聞き耳を立てている人がいないのを確認する。
そして、「男性陣なら何か知っているかもしれない」と優子に耳打ちした。
それもそうね。今回のレイプ事件に興奮している男の子もいるだろうけど、彼らなら利害なしに何らかの回答をくれるかもね──。
優子がそう思うのと、花織がメールを打ちはじめるのとは、ほぼ同時だった。