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事件現場は四階建てショッピングモールの二階にあるトイレだった。
二階部分はフロアのほとんどがレディス向けのショップになっており、とうぜんトイレの利用客も男性よりも女性のほうが多い。
しかし、事件当時の時刻が二十二時過ぎだったために人影もまばらで、一階の食料品売り場に客が集中する時間帯でもあった。
被害者の女性を最初に発見したのは、市内の大学に通う植原咲(うえはらさき)という女子大生である。
彼女がその異変に気づいたとき、それは自分を盗撮しようと忍び寄る携帯電話のカメラだと思っていた。
盗撮目的で女子トイレに侵入する連中だっているだろう。彼女もそれを疑わなかった。
彼女の悲鳴を聞いて駆けつけた女性スタッフに事情を告げ、すぐに警備員を呼んでもらった。
辺りは騒然となり、ほどなくして警備員が到着する。
女子トイレの入り口付近で、二人の女性がひとかたまりになっている。
植原咲と女性スタッフである。
二人をよそ目に、警備員は個室のドアをノックして呼びかける。
けれども返事がない。物音もしない。
ドアに鍵がかかっているのを確認すると、ぺっぺっと両手に唾をかけて、彼は蜘蛛おとこ顔負けの身軽さを見せた。
よじ登った先の個室内に、そいつはいるはずだった。
彼の目がそれを捉えた。確かに誰かいる。
だがしかし、予想していたような変質者の風貌とは違って、一糸纏わぬ美しい肢体の持ち主がそこにいた。
それが徳寺麻美(とくでらまみ)である。
植原咲とおなじく、市内の大学に通う二十歳の女子大生だ。
彼女はほとんど意識のない状態で床面に座り込み、着衣をなくした手足をだらりと投げ出していた。
彼女の右手に握られていた携帯電話が、無意識のうちにトイレの仕切りをくぐり、隣に居合わせた植原咲が盗撮と勘違いして悲鳴を上げたのだった。
徳寺麻美の陰部には乱暴された痕跡があった。
つまり、ほんとうの被害者は植原咲ではなく、徳寺麻美のほうだったのだ。
警備員の主導でバリケードを張り、警察へ通報するために彼は現場を離れた。
植原咲は、何気なく被害者の女性の顔を窺った。どこか見覚えがある。
おそらくおなじキャンパス内で見かけた顔だと思った。
不測の事態とはいえ、どうしても彼女の携帯電話が気になる。
植原咲は被害者の携帯電話を手に取り、画面が暗くなっていたので、とりあえず任意のボタンを押してみた。
ぱあっと画面が明るくなり、待ち受け画像があらわれる。
もしかしたら、自分を盗撮した画像が残っているかもしれないと思っていたが、そこにはまったく別なものが貼りついていた。
グリーティングメールのようでもあり、ホームページのトップ画面のようでもある。
植原咲は表情を硬くして、はっと息を呑んだ。
それは漆黒の背景に佇む異形なキャラクターと、短いメッセージが添えられたものだった。
『キョウフノサキニ、カイラクガアル。トリック・オア・トリート』