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彼女が個室のドアを開けたとき、期待を裏切らない空間がそこにあった。
トイレだからこそ清潔でありたい。
便座に座って、ほっと緊張を抜くと、下腹部を不快にさせていたものが一気に解消されていく。
おなじくして、行為の音をかき消すために『音姫』を流す。
確か、隣のドアも閉まっていたから、人の気配があってもいいはずなんだけど──物音一つたてない隣人に注意を払いつつ、彼女はバッグの中身を探った。
マトリョーシカ人形を扱うみたいにポーチを取り出し、さらにその中のエチケットポーチを取り出し、いちばん小さなマトリョーシカである生理用品の包みを膝の上で開く。
三つ折りの吸収シートを剥がして、その粘着面を神経質な手つきでショーツにあてがう。
そうやって下腹部を露出したまま、ぜんぶを済ませたときだった。
彼女の足元で動くものがあった。仕切りの下の部分に、わずかな隙間がある。
そこに隣人の影が映っているのだと疑わなかった。
しかし事態は彼女の思うところとは違っていた。
「きゃあああ!」
女性の悲鳴というのは、それだけで性犯罪に結びつけさせてしまう要素がある。
ほぼ密室状態のレストルームで彼女が見たもの。
それは、仕切りの下からこちらを狙う、携帯電話のカメラだった。