君に忍び寄る魔の手-1
◇ ◇ ◇
俺がそんなことを思い出しているうちに、食事を終えた二人は店を出ていた。
外に出れば湿った空気が肌にまとわりつき、どこからか下水道の臭いがムワッと立ち込めてきて、不快指数がグンと上がる。
「お腹いっぱい!
久留米くん、ごちそうさま」
そんな不快な空気を吹き飛ばすかのように、芽衣子は久留米に向かって元気にお礼を言った。
「次は、もっといいもん奢ってやるよ」
「じゃあ、次はお寿司とかリクエストしちゃおうかな」
「おう、なんでも任せとけ」
久留米がニッと笑うとすかさず園田が、
「久留米さんってホント男らしくて素敵ですよね。
あくまでさり気なく、女性には財布を一切出させない所がまたニクい」
と、わざとらしく俺をチラチラ見ながら言った。
一応芽衣子も財布を持って出たから、奢ってもらうつもりは毛頭なかったと思う。
しかし一足先に食べ終えた久留米は、“一服してくる”と席を立った時に、彼女に気付かれないように先に会計を済ませていたのだ。
多分俺なら“一服してくる”と席を立つまでは久留米と一緒だけど、そのまま黙って近くのコンビニに行って、雑誌なんかを立ち読みしていると思う。
そんな自分の行動を想像してると、なんだかいたたまれなくなってきて、俺は“うるせえ”と八つ当たり気味に園田の尻に蹴りを入れた。