君に忍び寄る魔の手-11
この芽衣子の表情には見覚えがある。
というか、俺は何度も彼女にこんな顔をさせてきた。
――俺が手をあげる度に見せた、恐怖にすくむ顔。
男に向けた顔と、手を上げた時の俺に向けた顔はなんら変わりがなく、瞳を潤ませ、唇を震わせているその表情は絶望に満ち溢れていた。
芽衣子を殴る男の姿が自分と重なる。
俺のしてきたことは、この卑劣な男と何ら変わりがなかったのか……。
「暴れんじゃねえよ、……殺すぞ」
ゾッとするほど冷めた男の声で、ハッと我に返った俺は、視線を奴らに向けた。
男は履いていたジーンズのポケットからバタフライナイフを取り出し、芽衣子の目の前に突きつけた。
ヒュッと芽衣子が喉を鳴らす。
人は本当の恐怖を感じたときは体が竦んで動けなくなる。
芽衣子もまたその例に漏れず、涙で歪んだ顔をそのままに体を強張らせていた。
男は芽衣子のショートパンツに手をかけながら、卑劣な笑みを彼女に見せた。
「すぐ済むから、妙な真似すんなよ」
そう言って、男は芽衣子のショートパンツを一気にずり下ろした。
芽衣子は息を呑んでギュッと目を閉じ、たった一言、
「……茂」
と俺の名前を呼んでから、歯を食いしばった。