君に忍び寄る魔の手-10
「やだっ……! だ、誰かたすけ……」
激しく首を左右に振って、口を塞いでいる手から逃れようと、懸命にもがく芽衣子。
それを目の当たりにしても、足がビクとも動かない。
芽衣子に乱暴をはたらく男が怖くて動けないのか、芽衣子にこのまま死んでもらいたいと思っているから動かないのか、もはやまともな判断すらできなくなってきた。
目眩で視界が揺らぎ、過呼吸のごとく乱れる息遣い。
その一方で、罠にかかった獲物のごとく激しく暴れる芽衣子は、僅かな隙をついて、口を塞いでいる男の手に思いっきり噛みついた。
思わぬ反撃に手を引っ込める男。
そして、芽衣子は掠れた声を振り絞って悲鳴を上げた。
その声は恐怖のせいか、ほとんど聞こえないくらいの小さなものだったけど、俺の耳にはやけに悲しく響いた。
僅かな反撃に苛立った男は、舌打ちしてから思いっきり芽衣子の頬を平手打ちした。
途端に芽衣子の顔が恐怖で目を見開いたまま固まり、力を込めていた手がダラリと落ちた。
それを見た俺も、金縛りにあったように全身が強張る。
そして、サブリミナル効果みたく、こんな風に恐怖で固まる芽衣子の顔がやたらと脳裏にチラつき始めた。