前編U-30
夕闇が迫る頃、島崎が戻って来た。十日目同様、行先は佐野以外伝えずに。
「班長……」
直ぐに鶴岡が近付いた。神妙な面持ちで、直立不動の体勢を採ると、勢いよく頭を垂れた。
「すいませんでした!自分の我が儘のせいで、皆さんに迷惑をお掛けしました!」
島崎は、鶴岡のこういう所は好きだった。自分の非を認めたら直ちに謝罪し、関係修復を図ろうとする。大人になるに従って難しくなる事だ。
ならば、此方も過ちを認めねばならない。
「俺も、言い過ぎた。すまなかった」
島崎も、鶴岡に頭を下げた。途端に、取り囲む空気が和やかになった。
その時だ。島崎の、机の電話が内線電話である事を告げた。
「──はい。強行犯、島崎」
電話は、科捜研からの荷物が届いていると言う、受付からだった。
直ちに鶴岡が荷物を受け取りに行くと、通勤姿の女性が待っていた。
「──すいません。ちょうど此方に用事があったので」
警察関連施設の郵送には、専用の郵送機関が用いられるのだが、それを利用するより早く渡せると考えたのだろう。彼女は退出後にも拘わらず、わざわざ報告書を届けてくれたのだ。
「ありがとうございます!」
小さな事だが、この様な細やかさが活力となる──鶴岡は覇気の有る声でお礼を口にし、報告書を受け取った。
報告書は先日依頼した、遺体胸部のMRIによる検査結果で、中身は書面とDVD一枚のみだった。
「画像を見せてくれ」
DVDが再生され、モニターに画像が映ると、全員が僅かに呻いた。
ニ十枚有るネガ画像の中心付近に、一際黒い円が浮き出ている。
「拡大して、分かり易く加工出来るか?」
「私では、ちょっと……」
一番詳しい中島真理子が無理だと言った。これでは、調査が進まない。
島崎が焦燥感を感じた時、鶴岡が声を弾ませた。
「班長!橋本さんに話を通して、写真係に、頼みましょう」
彼は、龍崎麗奈の卓越した技術を説いた。
島崎は直ちに橋本に依頼し、鶴岡に岡田、そして中島も向かわせた。
「どうしたんです?二日続けての上に大勢で」
「お前の画像解析の凄さを、もう一度見せてもらいたいんだ」
モニターに、拡大された円形が映ると、
「これ……丸じゃなくて八角形ですね。それに、何か図柄が有りますよ」
龍崎によって処理された画像は、徐々に“姿”を顕にした。