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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-23

「やっぱり、不味いですよ」

 鶴岡が、囁くような声で島崎に言う。彼は報告会直前、岡田に箝口令の理由を聞かされ、納得出来なかったのだ。
 島崎は、そんな鶴岡を無視した。この仕事に“理不尽”さは付き物であり、百パーセントの納得など、どだい無理な話である。

「──ではみんな、今日も頑張ってくれ」

 加藤の激励を締めに報告会は御開きとなり、全員が席を立つと会議室を後にした。
 捜査に出掛けようとする者、更に捜査プランを練る者。各々が抱えた案件解決の為、今日も所轄内を駆けずり廻るのだ。

「やっぱりおかしいですよ!」

 島崎達も又、殺害場所の特定と野村の遺体捜索、そして、昨夜入手にしたトラックの解明に掛かろうとしていた。
 その矢先、鶴岡が食って掛かって来た。

「理由は解りますが、やはり納得出来ません!」

 部下の捜査に対する不満は、やがて不協和音となって跳ね返って来る。だから通常なら、対話によって解決を図るのだが、 島崎は、敢えて対話による解決を採らない。

「だったら、お前は降りろ」

 敢えて突き離す。案件全てを納得するのは無理であり、納得させるつもりも無い。

「俺の指示に従えん奴は、捜査に必要無い、降りろ」
「そんな!無茶苦茶です」

 余りの独断ぶりに鶴岡は、“これは島崎の言葉なのか”と我が耳を疑った。
 しかし、島崎にとって今の鶴岡の方が信じられ無かった。
 自分の下に付いて一年。仕事の理不尽さなど充分把握してると思っていたのが、覆されてしまったのだ。
 今の状態では不協和音の源であり、何れは班に悪影響を及ぼし兼ねない。ならば、早目に摘んでしまうべきだ。

「ちょっと待って下さい!」

 結論付けた島崎に、岡田が異議を唱えた。

「彼は私が説得します、もう一度チャンスを下さい!」
「ち、ちょっと岡田さん……」
「あんたは黙ってなさい!」

 岡田は鶴岡を一喝すると、眼力を込めて島崎を見据えた。

「班長、私は鶴岡の相棒であり教育係です。至らぬ点は私の責任でも有ります。
 ですから、今暫く、彼に教育する時間を私に与えて下さい!」

 深々と頭を下げた岡田に、島崎が躊躇していると、佐野の「私の方からもお願いします」と言う声が掛かった。

「……貴方が“未だ半人前だから”と言って拒んだのを、強引に岡田と組ませたのは私ですから」

 佐野の目が笑っている。“振り上げた拳の降ろし所”を、島崎に与えたのだ。

「……分かった。今回は俺の胸に仕舞っておく」
「有難うございます!」

 鶴岡の頭を押さえ付け、岡田は再び頭を下げた。

「……岡田君に感謝しろ」

 そう言った島崎は、佐野の顔を見た。「これで良いのか?」とでも言いたげな苦笑顔で。対して佐野も、笑顔で肯いている。
 まるで、十数年来の友人同士の様な互いの仕種。

「ヨシ!今日も頼むぞ」

 激励を合図に、捜査官は一斉に部屋を飛び出した。






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