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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-16

「そ、そう言えば!」

 そして思い出した。目撃した際の状況を。

「も、目撃者は、その直前まで自販機の前にいたんだ!」

 鶴岡の言葉を聞いた途端、龍崎が嬉々とした表情になった。

「だとしたら、目撃時は目の網膜の調整が利かず、他の色を黒と見間違えたのかも!」
「そんな事が有るのか?」
「目撃者が老人なら、目の調節機能は衰えてます。例えば、シルバーなら暗闇と同化して、黒く見えた可能性が有ります!」

 瓢箪から駒の如き二人のコンビネーションが、新たな可能性を導き出した。

「ほらっ!さっさとやれって」
「分かってますよ!」

 鶴岡がけし掛け、龍崎が応える──阿吽の呼吸で再び作業を開始した二人は、早送りになった画像を、息を殺して注視する。

「……!」

 僅か数分で画像は停止した。モニターには、先程まで“該当無し”と表示していた場所に、三台のトラックが映し出されている。その内、二台は大手運送会社のトラックだった。

「やった……」

 突然、鶴岡の中に熱い物がこみ上げた。
 少なくともこれで、野村の証言が本当だと立証される。ここから、何としても犯人まで辿り着いて、彼の死に報いなければならない。
 たった一度しか逢っていないのに、人の死が鶴岡を強い使命感に駆り立てていた。

「あれ……?」

 龍崎は、鶴岡の変化を目敏く見付けていた。

「鶴岡さん、何で泣いてるんです?」
「う、うるさい!」
「あらあら!泣く程、特定出来たのが嬉しんですか」
「煩せえぞ!このブスが」
「あー!それ、セクハラですからね。お宅の課長に訴えますよ!」

 案件発生から十一日目──。
 鶴岡自身にとっては、最も辛い一日だったが、遂に一筋の光明を見る事になったのも事実である。

(必ず、暴き出してやる!)

 かなり耳障りな龍崎の小言を受け流しながら、鶴岡はこれからの捜査に燃えていた。



「島崎さん!やっと……」

 特定を終えた鶴岡は、別棟から本棟四階に有る、強行犯係の部屋に駆け込むと島崎の存在を探した。が、そこに姿は無かった。

「島崎さんなら、佐野さんと一緒に非常階段よ」

 そう答えたのは、岡田だった。

「非常階段?何しに」
「一服を兼ねたミーティングよ。貴方、島崎さんの事、本当に何も知らないのね」
「う、煩いなあ……」

 バツが悪そうに出て行こうとする鶴岡を、岡田は引き止める。


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