君が恋人に変わった日-9
「いや俺はな、お前にカッコいいとこ見せたかったんだよ。
実際カッコよかっただろ? FS360(=フロントサイドスリー・シックスティー、前方の足と同じ方向に一回転すること)がバッチリ決まった時なんて、お前目がハートになってたもんな」
俺がおどけると、芽衣子は少し顔を赤く染めキュッと唇を噛み締めた。
「茂、調子にのんな。お前最後に思いっきり転んでたじゃねえか」
すかさず久留米が芽衣子からもらった飴を俺に向かって投げつけた。
「あれはキッカー(=エアトリックを行うときに使用するジャンプ台)がわりいんだよ。
あそこにコブがあったのは絶対嫌がらせだ。
あれさえなければ完璧に芽衣子は俺に惚れてたのになあ」
こんな風にまた、いつものパターンでふざける俺。
だがいつもケラケラ笑う芽衣子が、今日はなんとなくノリが悪くて、俺の冗談にも俯いているだけだった。
しかし俺は、そんな彼女の様子を特段気にも留めることもなかった。
初めてのボードで疲れたんだろうくらいにしか思わなかったのだ。
実際俺も疲れていたから。
だからそんな彼女をよそに、食うだけ食って満腹になった俺は、バスが出発して30分もしないうちにいびきをかくほど深い眠りに落ちていった。