君が恋人に変わった日-10
「……手島くん、手島くん!」
何度か芽衣子に太もものあたりを叩かれ、ようやく目を覚ました。
よだれを垂らすほど寝こけていたらしく、慌てて口元を拳で拭った。
「重いよ、頭」
芽衣子に言われ、自分が彼女の肩にもたれかかって寝ていたことに気付く。
「ああ、わりい……」
寝ぼけ眼で辺りを見回すと、みんな疲れ果てていたのかぐっすり眠っていて、出発した時の賑わいは嘘のように静まり返っていた。
久留米も、腕組みしながらコックリコックリ舟を漕いでいる。
「今、どの辺?」
「ええと、もうすぐ首都高入るって」
窓を見ると外はすっかり暗くなっていて、景色よりも自分の寝ぼけた顔が目に入った。
トイレ休憩や、昼食のたびに目を覚ましていたものの、疲れが一気にのしかかっていたせいか、バスに座っている間はほとんど寝て過ごしていた。
「岩手なんて遠くじゃなくて、もっと近場にすりゃたくさん滑れたのになあ。
それかもう一泊してもよかったな」
「あたし、しばらくはいいや。
全身筋肉痛でしばらく動きたくない」
「なんだよ、根性ねえな」
俺が、そう言ってニヤニヤしながら芽衣子の顔を覗き込むと、彼女は形のいい眉を少し歪ませ、悔しそうな顔をしていた。