『SWING UP!!』第16話-15
“隼リーグ”後期・第2戦 法泉印大学 対 仁仙大学
【法泉大】|010|020| |3|
【仁仙大】|200|100| |3|
その試合展開は、“投手戦”となった前期に比べれば、動きの激しいものとなっていた。
初回に誠治が放った“場外2点本塁打”は、全ての人の度肝を抜いたが、さすが“前期優勝チーム”の法泉印大学は、その勢いに引き摺られず、しぶとく追いすがりを続けてきた。
2回の表は、梧城寺響の二塁打を足がかりに1点を奪われ、4回の裏に“キーマン”であるところの、葵の適時打によって再び2点差としたが、5回の表にはまたしても響に長打を浴びて、2点を奪い返され、同点とされた。
キィン!
「!」
本来なら、既に“継投”の時期に入っている。しかし、関根が肘を痛めている今、マウンドに立つべき投手が1枚少ないため、その時期をベンチは見誤ってしまった。
【法泉大】|010|020|2 |5|
【仁仙大】|200|100| |3|
「ちっ、くしょぉぉ……」
7回の表に、福原は完全に掴まった。下位から始まる打順であったが、連続安打を喫して塁を埋め、1番の大仏に、フェンス直撃の長打を浴びて2点を奪われてしまった。
阿藤のレーザービーム(捕殺)によって3点目は防いだものの、中盤を終えたところでの2点差は、非常に重い。
二死ながら三塁に打者走者の大仏を残し、仁仙大学は“継投”の選択を間違いなく迫られていた。
「すんません……」
先制点をもらいながら、結局は逆転を許したことに、先発の福原は項垂れていた。この試合が大事なものであるということを、彼はわかりすぎるほどわかっていた。だから、その落ち込みようは激しかった。
「胸を張るんだ、福原君。キミは、いいピッチングをしました。謝ることはないし、俯く必要も全くありません」
しかし、そんな俯いた姿を叱咤するように、誠治はこれまでの好投に労いの声をかけ、その肩を強く掴んで、励声を与えていた。
「これからも、キミの力のある球は絶対必要になるんです。だから、今日の試合を“打たれてしまった”と思ってはいけない。ずっとリリーフでがんばっていたキミが、慣れない先発をして、それでもしっかり試合を作ってくれたのは、間違いないんですから」
「安原さん……」
「ありがとう、福原君。ナイスピッチングでしたよ」
「は、はい……!」
「………」
誠治の熱の篭もった口ぶりは、長い付き合いの六文銭も、初めて聞いたものだった。
「そうだ、福原。よく投げた!」
「このままで終わらせないから、安心しろ!」
「お、押忍っ……!」
その熱気が、マウンドに集まっているメンバーたちにより強固な結束を生んでいた。昨年であれば、窮地に陥ったとき、誰もがすぐに顔を出した“悲壮感”というものも、まったく感じられない。
(こんな“強さ”は、去年は、なかった)
よく指摘されてきた、チームとしての“勝負弱さ”そして“脆さ”…。昨年、ほぼ手中にしていたはずの“総合優勝”を逃した要因だったわけだが、誠治の熱気がその“悲壮感”を振り払ったといえる。
(これが誠治の、本当のリーダーシップって、やつなんだな)
自分が持ち得ない、誠治のカリスマ性を、六文銭は今更ながらに、思い知らされた。