赤い口紅を引いた恋人-6
長い黒髪に赤い口紅の女。
透き通るようなその白い素肌は、まぎれもなくあの頃の奈美子と瓜二つ。
「ど、どうですか?わたし…… お母さんに負けてませんか?」
溢れる涙を拭おうともせず、にっこりと俺を見て微笑む加奈。
俺はその姿に耐えきれず、気がつくと力任せに加奈の身体を抱き締めていた。
「馬鹿野郎っ 小娘が背伸びしてんじゃねぇよ!」
「こ、小娘じゃありませんっ こう見えても私もう二十歳ですからっ」
どこかで聞いたことのあるセリフ。
いつかと違い呂律は回っているけど、涙声だ。
「わ、私とお母さんを重ねたことないって言ってくれましたけど……嘘ですよね?」
「う、嘘じゃねぇよっ!この前アイツと会うまで本当に知らなかったし、知ってからも……」
「あは、嘘ですよ!だって…… そっくりでしょ?」
そう言ってくすくすと笑う顔は、悲しいかな加奈の言う通りそっくりだ。
でも、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて……
「に、似てるってのは認めるよ…… でもっ そうじゃなくて俺が言いたいのはっ」
「…………お母さんの ……代わりじゃないんですか?」
「当たり前だっ!」
「私じゃ…… 代わりになれませんか?」
「ちょ、ちげぇだろ!アイツの変わりだなんてこと一度も……」
「だってっ 私っ まだまだ子供でっ どんなに頑張ってもお母さんには……」
えぐえぐと、突然堰を切ったように涙を溢れさせる加奈。
加奈にとって奈美子は大好きな母親。
でも一方で、綺麗で恰好いい尊敬するひとりの女でもあるのだろう。
「…………負けてねぇよ」
「……え?」
「こんなこと言いたかねぇけど、顔も身体も張りも締まりも……」
「やだっ!そ、そういうのは聞きたくないですっ」
慌てて耳を塞ぐ加奈。比べさせようとしたり身代わりかとか聞いたりするわりに、
そういうのは聞きたくないだなんて──母娘って面倒くせえ。
「わ、悪いっ えと、つまりだな…… どんなに頑張っても過去のアイツと比べることは出来ねぇ。だから代わりだなんて思ったことなんかホントに一度もねぇんだ」
そっと手を耳からはずし、じっと俺を見つめる加奈。
この空気、この流れ、次に俺が何を言わんとしているのかくらい察しているだろう。
ちくしょう!だからひとまわりも年下の小娘に嵌るなんてイヤだったんだ。
恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
でも、わかってる。
ここまで来て話をうやむやに出来るほど、俺もまだ大人になりきれてないんだ。
「お、俺が言えるのはその…… いま俺が見てるのはオマエだけだってことだよっ」