赤い口紅を引いた恋人-3
俺の目をみつめ、黙ってじっと答えを待つ加奈。
怒ってる様子はないけれど、どこか悲しそうな顔をしている。
「こ、こいつはだな……」
「昔の…… 彼女さんですか?」
「……え?」
「だ、だってその…… すごく仲よさそうに見えたんで……」
彼女に見えることに別段驚きは感じない。
おたがい半裸で仲よさげに肩ならべてるんだから、むしろ普通の反応だろう。
そうじゃない。そこじゃないだろ?
ひょっとして加奈は、この女が誰だかわかっていないんだろうか?
「か、加奈?」
「はい?」
「こ、この女はだな…… そのっ」
「や、やだなぁ龍二さんっ そんな怯えないでくださいよ?べ、別に私たちっ 過去の写真見たくらいで動揺するような…… そ、そんな間柄じゃないじゃないですかっ」
いや、明らかに動揺している。
気にしてなければいちいち写真の話題に触れる必要もないだろう。
けれど、別に俺は過去の女を見られて焦っているわけじゃないんだ。
残念ながらさすがにもうそんな歳でもないしな。
それよりもその相手、赤い口紅の女が加奈の母親だという事実をどう説明するべきか、
そのことでずっと頭がいっぱいになっているのだ。
「…………加奈?おまえ、俺のこと好きか?」
「な、なんですか突然っ!?」
好きとか嫌いとかそんな間柄じゃない。
友達でもなければ恋人でもない──黒の他人。
その相手にタブーとも言える一言を投げかけたのは、
情けないけど、これから語る自分の過去に牽制しているのかもしれない。
「り、龍二さん?私、別に怒ってなんていませんよ?その……気にならないと言えば嘘になりますけど、過去のひとつやふたつ、ひとまわりも長く生きているんだから別に……」
「……相手が自分の母親でもか?」
「…………え?」
無理して笑いながら言葉を紡ぐ加奈。
けれど俺の言葉を聞いた瞬間、まるで時間が止まったように表情を強ばらせた。
ゆっくりとモニタに振り向くと、もう一度じっくりその写真を眺める加奈。
俺の顔を見てはまたモニタに、
たしかめるように何度も視線を動かしているのがわかる。