赤い口紅を引いた恋人-2
「ねぇ龍二さん?」
「うん?」
「私、龍二さんに謝らなきゃいけないことがあるんです」
なんだろう?嫌な予感がする。
ドジっ子の加奈がなにかしら失敗して謝るのは今までも何度かあったけど、
その神妙な顔からして、どうやら随分と大きな爆弾を抱えているようにも見えるが……
「この間その…… 龍二さんのPC借りた時……」
「ああ、なんか検索したいって使ってたな?」
「その時、その…… 見ちゃったんです」
「……エロサイトか?勉強熱心だな」
「ち、違いますっ そうじゃなくてっ その……」
やけに言いよどむ加奈。
はて?そんな見られて困るようなものなんて無かったと思うが。
「んだよっ まどろっこしいな……」
俺はそう言うと持ってきたノートパソコンの電源を入れ、カチカチとマウスを操作した。
作業中のプログラム、覚え書きのテキスト、あとはお気に入りのエロ動画フォルダ。
別に見られて困るようなものなんて……
「…………あっ」
散乱したデスクトップの片隅、一枚の画像、
俺はそれを見つけた瞬間、加奈の言いたかったことが手に取るようにわかった。
「……す、すいませんっ 見るつもりなんてなかったんですがっ」
「あ、いやっ こんなトコに放置した俺がいけないんだから…… その……」
気まずい空気が流れる。
言い逃れなんてなにも思い浮かばない。
「えと、……見たんだよな?」
「……はい」
「そか、見ちゃったか……」
「……ごめんなさい」
俺は大きく息を吸い込むと、ダブルクリックしてその画像を開いた。
そこに写るのは十七歳の俺と白い素肌に赤い口紅をつけた女。
乱れた長い黒髪は、あきらかに情事の跡を物語っている。
「こ、これはなっ その……」
「……わ、私に似てますよね?」
「あ、ああ…… に、似てる……よな」
「その人が……その人に似てるから…………私なんですか?」
加奈は大きな爆弾を容赦無く俺に投げつけた。
年貢の納め時──いや、納めて収拾がつくのならいくらでも納めたい。